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22「取締役≒取締役会≒株主総会」はどう変わるか

 

22「取締役≒取締役会≒株主総会」はどう変わるか

 ということで、株式譲渡制限会社についての特例は終わらせていただきまして、 point23(資料編16ページ~)、取締役会を設置しない会社に対してはどのような規定があるのか、に入って行きたいと思います。
 このポイントはざっと流しておきますけれども、取締役会を設けないほうが何かとシンプルですが、今度は、株主総会の権限が強くなってしまいます。ということになると、うるさい株主がいる場合には、むしろ取締役会を設けておいたほうが安全なわけです。気心が知れた株主だけで固められている場合はよいのですが、うるさい株主がいる場合には、あえて取締役会を設けてショック・アブソーバーにする、緩衝地帯を設けるというのも、一つの手かなと思います。
 あと、取締役会を設けない会社につきましては、株主総会が取締役会のような役割を果たすことになりますから、招集手続などか非常に簡素化されます。極端な話、電話一本で 株主総会を招集できる。電話で、「おい、明日、株主総会をやるよ」と株主全員に連絡すればよい。招集通知をつくって、それに議案を載せて、決算書を添付して……と、そういう必要は一切ないという話です。つまり、取締役会のようなイメージで株主総会を招集できるということです。
 次のpoint24(資料編18ページ)に入ります。現行の商法では、株主総会の開催地は、本店の所在地かその隣接地に限定されています。たとえば、新宿に本店のある場合には、株主総会を開催できるのは、新宿区と、それに隣接する渋谷区、豊島区、中野区、千代田区になるのでしょうか。そういう隣接する区でないと株主総会を開催できないことになっています。もちろん、定款に規定を設ければ別ですよ。うちは中央区で開催しますというふうに定款の規定があれば、中央区でも開催できるわけですけれども。ところが、新会社法のもとでは、自由に開催場所を決定することができます。
 そもそも、新宿区の会社が中央区でやっても、そんなに距離が離れているわけでもなく、問題にはならないということです。これだけ交通の便も発達しているので、あえて隣接区に限定する必要もないだろうということになります。もっとも、嫌がらせで、あまり株主に出席してほしくないので、どこかの離れ小島でやりますとか、そういうようなことは、その招集手続が著しく不公正ということで、株主総会決議の取消事由になります。
 また、法務省令でも、株主総会の開催場所が過去の開催場所と著しくかけ離れた場所であるときは、その理由を開示しなければならないと規定しています。そのような非常識なことはやってはいけませんが、株主全員が同意して、たまにはリゾート気分で、石垣島でやろうよということになったら、それはOKです。
 それからpoint46。取締役を普通決議で解任できることになります。取締役をクビにする場合です。これは取締役だけの話です。監査役はだめです。会計参与についても、取締役と同様と考えてい ただければよろしいかと思います。
 現行では、選任は普通決議でよいけれども、解任は特別決議ということになっています。しかし、新会社法の下では、特別なケース以外は、普通決議で解任できますよという話です。これにより、敵対的買収がやりやすくなりますね。過半数の株式を買収すれば、社長をクビにできるわけですから。もっとも、定款に規定することによって、取締役解任の決議要件を厳しくしておくことはできますが。

 

23「補欠監査役≒補欠取締役」の予選ができる

 補欠監査役とか補欠取締役をあらかじめ予選しておくことができますよ、ということです。多くの中小会社の場合、監査役を1人選任されているだけだと思います。取締役の場合には、3人きっちりではなくて5~6人選ばれていますから、1人や2人何らかの事情で欠けたとしてもそれほど問題にはならないですね。ところが、監査役の場合には、ふつう2~3人も選んでおきません。通常1人しか選びませんよね。ですから、万一その人に ご不幸等があった場合には、慌てて別の監査役を探さなければいけないことになります。
 突然、お客様から電話がかかってきまして、いや実はこんなことになってしまって、いつまでに代わりを探しだらよいのですかなどとよく聞かれるのですが、それは可及的速やかに探してもらうしかないですね、としかお答えできないのです。
 そういったときに、慌てなくてもいいように、この人に万が一のことがあった場合に備えて、補欠の監査役や取締役をあらかじめ選んでおくことができるという規定がこれです。
 現行でも監査役については認められておりますが、あらかじめ定款の規定が必要になります。定款に規定した上で、選ぶという形になります。ところが、新会社法におきましては、定款の規定は必要ありません。だから、どの会社でも、定款の規定なく補欠の取締役や監査役を予選しておく、あらかじめ選任しておくことができるということです。これも結構便利だと思いますので、頭の中に入れておいていただければと思います。 また、会計監査人が代表訴訟の対象になるということも、先ほどお話をいたしました。

 

24「基準日後になった株主」の議決権はどうなるか

 それから、point24(資料編25ページ)のところ、基準日後になった株主も議決権を行 使できますよというお話です。
 これはどういうことかというと、多くの会社は3月決算で、通常、株主総会を6月に開きます。株主総会に招集する株主を特定できないと困りますので、大体は基準日というのを設けまして、3月末時点で株主である人を株主とみなして招集通知を発送し、株主総会で議決権を行使してもらう。そういう規定を設けている会社は、結構多いですね。特に上場会社の場合は、そうだと思います。
 そうすると、たとえば、3月末の後、4月1日から株主総会までの間に増資をしました、あるいは合併をしましたとなると、株主が増えますよね。新たに株主になった人か、当然出てくるわけです。この規定でいきますと、その新たに株主になった人というのは、目前の株主総会で議決権を行使できないことになるわけです。なぜならば、3月末時点では株主ではないから。それでは不都合な場合もあるので、会社の判断で、そういう人たちにも議決権を与えてもよいということになっているのですね。そういう規定です。
 ここで私が言っておきたいことは、たとえば、4月1日から株主総会までの間に株式の譲渡が行われました、株の売買が行われましたという場合です。買主は新たに株主になったわけで、その人に議決権を与えることができるのかどうかという問題です。
 勘違いされると困るので、あえてここでコメントをしておきますが、これについては資料のpoint24を見ていただきたいと思います。但し書き以下のところの4行の部分です。
 法律では、基準日において株主であった者の議決権を害することはできない、ということになっています。これは、基準日で株主であった人の議決権を剥奪するということはできない、というふうにとっていただければよいと思います。もし、株式の譲渡で株式を取得した人が議決権を得るということになると、基準日に株主であった売主には議決権がなくなる形になりますね。だから、だめだということです。結局、売買により株式を取得した人については、議決権を行使できないということになるのです。 ただし、基準日後に、自己株式の処分により発行会社から株式を譲り受けた人については別です。もともと、発行会社が所有している自己株式には、議決権がないわけですから。

 

25「株券不発行会社」になるためには

 次は、2大商法違反のもう一つです。株券を発行しないのが原則になる、という話です。巻末の資料でいけば、26ページになります。
 先ほど、商法違反の1つとして株券の発行があります、というお話をしました。現行では、株式会社は株券を発行するのが原則になっております。もっとも、04年の9月以前においては、全ての株式会社について、株券の発行が強制されていました。04年の10月から商法が改正になりまして、原則は発行、例外的に不発行も認めるということになりました。
 例外的にということは、定款に規定をして、もちろん登記もしなければだめですが、うちは株券不発行会社ですよという定款の規定を設け、なおかつその旨を登記した場合に限り、株券を発行しなくてもよい、と。そういうふうに、商法が変わったのですね。だから現行では、原則発行、例外的に不発行という形になっています。
 ところが、新会社法におきましては、これが逆になります。原則は不発行、例外的に発行。うちはどうしても株券を発行したいのだという会社は、定款に、うちは株券発行会社ですよという規定を設けて、登記をするわけです。だから、今までと、全く逆のことをする。それが新会社法施行後の話です。
 そうすると、商法違反が解消されてよかったと、皆さんは胸をなでおろされるかと思いますが、それは大きな間違いです。なぜかというと、先ほどの話は、新しく作った株式会社の話です。既存の株式会社については経過措置というものがありまして、現在株券不発行会社でない会社が新会社法に突入した場合、つまり、新会社法の施行前に株券発行会社であった会社は、施行後も株券発行会社とみなすという形になるのです。定款に、うちの会社は株券を発行しますよという規定がある会社とみなします、と。定款には何も書かれていないにもかかわらず、法律上は書いてあるものとみなしますよ、という話になってくるわけです。だから、皆様方の商法違反は、いつまでたっても解消されないという話なのです。
 では、何をしなければいけないかというと、方法は二つです。
 今のうちに株券不発行会社になる手続きをとってしまう。つまり、今のうちに定款の規定を設けて、登記をして、株券不発行会社になってしまう。こうすれば、あとは何もしな くてもよいわけです。新会社法になったとしても、自動的に株券不発行会社になるわけですから。
 もしくは新会社法になった段階で、定款を変更して、実際には定款には書かれていない規定を抹消するという形です。目に見えない定款の規定を抹消する、定款の変更手続きをとる。当然、登記も変更しなければいけないですよね。登記も抹消手続きをとる。
 どちらかを選ばなくてはいけないという話です。そうでないと、いつまでたっても商法違反のままになります。その辺のところを忘れないでいただきたいですね。何もしなければ、商法違反のままずっと行ってしまうということです。

 

26株主の「名義変更」の際は何に注意すべきか

 折につけて、よくお話しすることですが、株券は非常に大事です。どういう意味で大事 かというと、株式の権利の所在、誰が株主かを特定する場合、誰が株券を持っているのかということが、非常に重要なポイントになってくるからです。現行の商法では、株券を持 っている人が私は株主ですと名乗り出れば、そのように推定されるという規定になっています。
 また、私からあなたへ株を譲りますといった場合は、必ず、私からあなたに株券を引き渡さないと、譲渡の効力は生じない。これについても、現行の商法に規定があります。商法205条です。このように、株券の存在というのは非常に大きいのです。
 相続の際は、名義株のことでよくもめますよね。世の中には、名義だけの株主というものがあるわけで、名義株はよく見かけます。この名義株は、いろいろな意味で問題になるのですけれども、一番よくあるパターンは、実際に相続が起こりまして、家族名義の株式が、果たしてその家族の株式かどうかということです。税務調査で非常にもめることが多い。名義が家族になっているから、当然亡くなった方の遺産ではないということで、相続税の申告から外すわけです。けれども、税務署のほうは、これは名義株じゃないか、名義人の株ではなく亡くなった人の株じゃないのかと、だから申告をやり直せ、というような話になります。
 その昔、株式会社をつくるのには、必ず7~8人の株主が必要で、そうでないと株式会社がつくれなかったのですね。これが、平成2年の商法改正で、1人でもつくれるということになりましたけれども、多くは平成2年よりも前に作られた会社です。そういう会社は、必ず7人~8人の株主を集めて作ったわけです。でも、実際に株主を集めたわけではなくて、名前だけ借りて、とりあえず何株ずっか名前連ねるという形で、名義だけの株主を設けていたというケースが非常に多いのです。
 そして、7人集めるためにどうするかというと、奥さんがいれば当然奥さんでしょ、子供がいれば子供でしょ、自分の兄弟がいれば兄弟で、それでもだめなら知人という話になるわけです。そういう名義株について、税務署は、あくまでも実質の株主は誰かで判断します。税務署は名義どおりの判断をしないわけです。
 実際に払込みをしたのは誰、その株式を支配しているのは誰という話になってくるわけです。もし名義株だとすると、本来の株主である亡くなった人の財産として申告しなければならない。その辺のところをきちんと調べるために、相続税の税務調査は、かなり厳しくしつこくやられます。その調査に対応するのは、残されたご遺族です。本人は亡くなっていて死人に口なしですから、何も言えないですよね。事情がよくわからないまま、ご家族は税務調査の対応をしなければいけないわけです。
 残された奥様やご子息が実質上の株主であることを証明する一つの方法は、株券を持っていることです。私は株券を持っていますよ、私の名義に裏書された株券を持っていますよ、ということは、非常に強力な証明の手段になるわけです。そういうことで、きちんと 株券を発行して、しかるべき株主がきちんと保管する。これが非常に大切ですね。
 ところで、新会社法で株券不発行が当たり前になり、株券が発行されなくなると、何で株主を判断するのかという話になってくるわけです。そこで重要になってくるのは、株主名簿です。新たに株主になった場合には、必ず名義変更の手続きをとる。会社はその名義変更の手続きにより株主名簿を書きかえます。株主名簿、いわゆる会社に保管されている株主台帳が、誰が株主であるかという証明書として、非常に重要な役割を果たすことになってくるわけです。だから、株券については発行しなくてもよくなりますが、株主名簿については、今まで以上に厳密に、きちっと管理しておかなければいけないという話です。
 よろしいですか。株式の移動があれぱきちっと日付をつけて、名義変更の書き込みをするということです。まさにコンプライアンスの時代、こういう法的手続は、今後ますます重要になってきます。これは、我が身を守るためです。人のためにやっていることではないのです。

 

27「子会社」の範囲はどこまで広がるのか

 つづいて、point33(資料編35ページ)になります。子会社の範囲がちょっと広くなります、ということ。
 現行における親子会社の関係とは、親会社か子会社の総議決権の50%超(50%ジャストだとだめですよ。50%超ですから1議決権でも50%を超えていないといけないですね)を持っている関係をいいます。それから、子会社というのは必ず株式会社か有限会社ということになります。50%超の議決権ですから、当然、株式会社か有限会社ということになります。
 この親子会社の関係について、もう少し実質的に見ていこうよということになりました。  議決権の50%超持っているということは、支配しているということを意味します。だから、 議決権の50%超を持っている、持っていないという形式的な基準ではなくて、実質的に支配しているかどうかという基準で見て行こうではないかということです。
 法務省令によりますと、新しい子会社の定義として、財務諸表規則の第8条とほぼ同じ内容の規定が設けられています。
 ということは、会計上の子会社の概念と新会社法の子会社の概念はほぼ完全に一致するということです。
 これにより、今までよりも、つまり現行よりも子会社の範囲が広がることは間違いのない話です。
 それと、もう一つ言えることは、現行では子会社は国内の会社の場合に限定されています。外国法人については、たとえ株式を100%保有する現地法人であっても、商法上は子会社にならないのです。確かに、会計上は連結対象になりますけれども、商法上は子会社にならないのです。しかし、新会社法のもとでは、外国法人であったとしても、また、株式会社以外の会社(たとえば、持分会社など)であったとしても、実質的に支配していると判断されれば、子会社になります。
 ところで、親子会社関係にある場合には、いろいろな規制が設けられます。たとえば、子会社は親会社の株を持ってはいけない、とか。親子会社関係が適用される範囲が今までよりも広くなりますから、新たにそういった規制にひっかからないかどうか、注意する必要かあります。
 親子会社関係と並んで、相互保有株式という規定かありまして、資料のpointの35 (37ページ)です。お互いに株式の持ち合いをしている場合を考えていただきたいと思います。そして、一方の会社か他方の会社の議決権の4分の1以上を持っているとすると、 他方の会社が持っている一方の会社の株式については議決権がないということになります。これを相互保有株式といいます。だから、お互いに持ち合い割合がどんどん進んでいってしまうと、お互いに議決権がなくなってしまうというような話になってくるわけです。
 こういう規定は、現行の商法にも設けられていますが、「議決権の4分の1以上」ではなくて、「議決権の4分の1超」になっています。
 今までは、4分の1ジャストなら問題なかったわけですが、これからは、4分の1未満に抑えなければならなくなります。
 さらに、この相互保有関係の「議決権の4分の1以上」についても、もう少し実質的な基準でいこうじゃないかという話になっています。
 具体的には、「議決権の4分の1以上」を保有されている株式会社だけでなく、「議決権 の4分の1以上」を保有されているのと同じような状態にある持分会社や組合等が持っている株式についても、この際、対象にしようじゃないかという話になっています。したがって、相互保有株式に該当するケースが、今までよりも増えてくるという形になります。議決権を行使できない株式が増えるという話です。

 

28「配当は決算時」の常識が消える

 pointの37(38ページ)、ここらあたりがもう一つの大きなヤマ場になります。四半期配当や現物配当ができるとあります。現物配当とは、お金じゃなくて物で配当をしましょうということです。通常のパターンでは、物で配当をするということはあまりないとは思いますので、重要なのは四半期配当のほうです。少し先のpoint43、point44、それからpoint45(52ページ~)と、この辺はすべて絡んでくるのですけれども、要するに、期末における利益処分という考え方がなくなりますということです。もちろん利益処分という行為は残りますけれども、利益処分というのは 決算期に限ったものではなくなるのですね。だから、期中いつでも利益処分ができるようになる、というふうに考えてください。それが一番わかりやすいですね。利益処分がなくなると言うと語弊があるので、期中において好きなときに利益処分ができます、というふうに考える。期中、随時に利益処分かできますよ、と。
 先ほど、自己株式の取得が、定時株主総会でなくてもできるという話をしました。臨時株主総会を開いて、随時に自己株式の取得をしてくださいと。自己株式を取得するということは株主にお金を払うことですから、考え方としては配当と同じですね。それと同じ流れで、配当についても、いつでも出してもいいですよ、期中、随時に臨時株主総会を開いて配当決議をし、配当を出していただいても結構ですよということです。ということで、利益処分は、決算に限った処理ではなくなるのです。
 したがって、四半期配当と、切りよく四半期とは書いてありますけれども、月次配当でも一向に構わないわけです。また、2ヵ月に1回とか、気が向いた月だけ配当するとか、それはまったくの自由です。要するに、臨時株主総会を招集しなければいけないですが、臨時株主総会の決議さえ得られれば、好きなときに、随時に配当ができるという話です。さらに突っ込んだお話をしますと、利益処分の中身にはどのようなものがありますか。
 たとえば、役員賞与を出すということ、配当を出すということと、それから貸借対照表の 利益剰余金のところに、○○積立金というのがありますネ。あれを取り崩したり、あるいは積立てたりしていますよね。ああいう利益処分でやっている会計処理を、すべて期中でできるということです。臨時株 主総会さえ開けば、いつでもそういうことができるということです。たとえ期中であっても、臨時株主総会の決議さえ得られれば、任意積立金や××積立金を取り崩すこともできるし、△△積立金に積み増すこともできる、あるいは配当をすることもできるということになってくるわけです。期中随時にやってよい、それが大きなポイントですね。
 ただし、期中随時に配当を出しますというと、まだ決算を締めていないわけですから、利益がないにもかかわらず配当をしてしまうことになると困りますね。会社の存続か危う なることにもなりかねません。そこで、財源規制というものを設けています。それが巻末の資料の41ページの図です。この図の内容は非常に難しいので、このような細かい計算をして分配可能額を出すのだな、程度のことでよろしいかと思います。いずれにしろ、このような形で債権者保護が図られることになっております。
 ところで、この図で、一つだけ見ていただきたいところがあります。図の下から4行目 から2行目までのところ、臨時会計年度と書いてありますね。ちょっとマーカーでもしていただけるとよいと思います。臨時会計年度ということですけれども、期中随時に臨時決算を、別に、無理に組む必要はないですが、組みたければ組んでください、という話です。ここで勘違いしてはいけないのですが、期中に臨時配当を出す場合には、必ず臨時決算も組まなければいけないのかというと、決してそうではないということです。その辺のとここで勘違いしてはいけないのですが、期中に臨時配当を出す場合にはの臨時配当と臨時決算とは別物です。だから、別に臨時決算を組まなくても配当は出せます。当然、利益処分もできます。積立金の取崩しや積立てなど科目間の振替もできます。
 勘違いしやすいので、頭の中できちんと整理しておいていただきたいですね それらは、臨時決算とは別物です。
 確かに、臨時決算を組むと、分配可能額が増える可能性はあります。もちろん、利益が出ていればの話ですが。臨時決算を組んだ結果、赤字になってしまいました。そうすると、反対に、配当可能限度額は減ってしまいます。絶対もうかっているという自信がある人は、どうぞ臨時決算を組んで、分配可能額を計算し直していただければよいのです。そうすれば、余分に配当が払えるかも知れません。ただ、余分に配当が払えるかも知れないということだけであって、配当が払えないということではないのです。そこをちょっと切り分け ておいていただきたいと思います。
 繰り返しますが、臨時決算と臨時配当とは違います。配当は別に臨時決算を組まなくても分配可能額の範囲内で出すことができます。でも、利益が出ているので分配可能額を膨らませたいということであければ、臨時決算を組めば分配可能額は膨らみます。その分だけ配当を払える枠が増えます。ただそれだけの違いですね。
 このように、配当は決算時という考え方が、根底から崩れてくるわけですね。好きなと きに配当を出せる。それが可能になりますということです。

 

29「役員賞与」の取扱いはどう変わっていくのか

 あわせて、役員賞与についてもお話ししておきますと、point44、資料の50ページのところ、利益処分による役員賞与がなくなる。このように、期末の利益処分という考え方がなくなりますので、利益処分による役員賞与というものもなくなります。期中随時に配当できるわけですから、役員賞与も、期中随時に出していただいて結構ということです。  ただし、役員報酬や賞与の支給は、株主総会の決議事項になりますから、必ず決議をとる必要があります。1年間いくらの範囲内でという総枠をあらかじめとっておく方法もあれば、その都度、個別の決議をとるという方法もあります。
 また、新会社法では、役員賞与も、役員報酬と同じ職務執行の対価として位置づけてい ます。今までは、利益処分案の中に役員賞与という項目を入れて、あえて別の議案にはしなかったですよね。ところが、利益処分として処理することができなくなりますから、今後は、役員賞与の支給という単独の議案を上げないといけなくなりますね。定時株主総会の利益処分案という議案はもうなくなり、配当の支払いとか、役員賞与の支給とか、そういう個別の議案になってくる。すべて、個別の決議になります。
 それから、会計のお話ですけれども、これにあわせて役員賞与の会計処理も変わります。今までは、役員賞与については、費用処理をするという方法と、利益処分として処理をする方法の2通りがありました。ところが、新会社法施行後は、費用処理一本に限定されます。利益処分として会計処理をするということはできない、そもそも、当期末処分利益という勘定科目はなくなるのです。だから、当期末処分利益から役員賞与に振り替えるということはできなくなります。
 それでは、今までどおり、決算役員賞与を出したいときはどうすればよいのか。そのときは引当金を計上する形になります。期中に払う場合には、
借方:役員賞与/貸方:現金預金
 でいいわけです。ところが、今期分の決算役員賞与を払いたいという場合には、その承認は定時株主総会でとるわけですから、それまで聞かあります。そこで、期末時点で、引当金を計上するわけです。
 どういう勘定科目を使うのかは、明確に決められているわけではないのですけれども、 たとえば、
借方:役員賞与引当金繰入額/貸方:役員賞与引当金
 といった感じです。計上する金額は、もちろん定時株主総会に上程する金額です。こういう期末処理をする。借方は繰入額ですから、費用処理でしょう。利益処分じゃないですよね。こういう形をとりなさいと、企業会計基準委員会から「役員賞与に関する会計基準」 が出ております。
 ただ、会計上は費用処理になっても、税金の方は損金算入を認めてくれるのかというと、これはまた別問題です。平成18年度の税制改正案が出ていますが、それによると、役員賞与についても条件つきで損金算入を認めようということになっています。具体的には、
・あらかじめ決められた時期に、あらかじめ決められた金額を支給することになっているもの
・非同族会社における業務執行役員の利益連動型報酬で、一定のもの については、損金算入が認められる予定です。
 このように、税金のほうでは、すんなりと損金算入というわけにはいかないのですが、 会計上は、あくまでも費用として処理をする。
 費用処理ですから、販売費及び一般管理費などとして計上されるという話ですね。今までは、役員賞与は費用ではなく、当期末処分利益の処分として処理してきたわけですから、見かけの利益は少なくなってしまいますね。
 つまり、今までは、利益処分として当期末処分利益で処理していたから、当期純利益には関係しなかった。今後は、費用処理になりますから、役員賞与の分だけ計上される利益の金額は少なくなります。実質的な中身は変わらないのですが、決算書の上では、不利な表示方法になってしまいます。不利という言い方は、よくないのでしょうけれども。

 

30新たな決算書「株主資本等変動計算書」とは

 それから、もう一つ大きな問題として、こういう形で、期中に好きなように配当金を出し、好きなように利益処分をすることができます。そうすると、前期末の貸借対照表と当期末の貸借対照表の純資産の部の中身は、もう全然一致しなくなるわけです。その間にどんな動きがあったのか、さっぱりわからない。今までだったら、大半は、期末の利益処分でしか動かせなかったわけですから、とくに問題はなかった。
 ところが、これからは、期中に自由に動かしてよいという話になりますから、前期末の 貸借対照表の資本の内容と、期末の貸借対照表の資本の内容が、大きく様変わりしてしまうわけです。その間に、どのように動いたのか、まったくわからない状態になるのです。
 そこで、新たに「株主資本等変動計算書」という計算書類を設けなさいという話になります。資料の52ページのpoint45、それから58ページです。まず、52ページのほうからいきましょう。現行の商法で決算書類とは何を指すかということになりますが、これは皆さんもおなじみで、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案または損失処理案、それに附属明細書、こういう種類があるわけです。これが新会社法ではどうなるかというと、まず、営業報告書が事業報告という名前に変わります。それから、利益処分案または損失処理案 がなくなって、株主資本等変動計算書という新しい計算書類を作成することになります。
 また、それぞれの計算書類に掲載されている注記についても、新会社法では、「注記表」 として、一つの計算書類として位置付けられることになります。
 あとは、用語の説明ですけれども、貸惜対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表をまとめて計算書類と呼びます。それから、附属明細書については計算書類の附属明細書と事業報告の附属明細書の二つに分かれますよということです。ところで、株主資本等変動計算書とは、期中における資本金・準備金・剰余金などの変動を記載した計算書類です。新会社法では、期中いつでも、剰余金の配当や剰余金の処分、いわゆる利益処分や損失処理などができるため、このような計算書類が必要になるのです。
 この計算書のひな形を、資料の58ページに掲載しておきました。この他にも縦型がありますけれども、横型のほうが一覧性があってわかりやすいので、こちらのほうをお勧めいたします。
 一番上の行に前期末残高を記載する。その下に、期中の変動をその事由ごとに記載して、 一番下の行に当期末残高を記載するという形です。当期末処分利益という記載はどこにもないでしょう。上から7行目に、「当期純利益」というのが出てきます。損益計算書の当期純利益はここにくる。だから、当期末処分利益という表示は、もう不要になるのです。
 それから、上から4行目のところに「剰余金の配当」とありますが、ここには、当期に支払った配当金が記載されます。あと任意積立金の増減等についても、すべてこのように記載します。

 

31「資本」の中身はどこまで大きく変わるのか

 ここで、資料編54ページに戻っていただきます。
 これも、実務上、非常に重要なポイントになります。貸借対照表の資本の部の名称や中身が変わります。今、私は、資本の部と言いましたけれども、近々、資本の部と呼ばないで「純資産の部」と呼ぶことになります。
 何で「純資産の部」と呼ぶのかということですが、新しい「純資産の部」の中身を見てください。結構、見なれない科目が記載されています。下から見ていくとわかりますけれども、「新株予約権」という科目が入っています。それから、「評価・換算差額等」という項目がありますね。その中の、「その他有価証券評価差額金」とか「土地再評価差額金」。 これらは今までもあったのですけれども、「繰延ヘッジ損益」がここに入ってきています。
 要は、負債でも資産でもないものは、すべてここにまとめますという考え方です。では、「株主資本」といったものが「資本の部」でしたが、これからは、資産でもないし負債にも該当しないもの、その他すべてを寄せ集めます、と。その寄せ集めの部が「純資産の部」です。寄り合い世帯みたいなものですね。だから、名称についても、「資本の部」と呼ぶと語弊があるので、「純資産の部」という、ぽかしたような表示になっているのです。
 この「純資産の部」の中で、新会社法がらみで重要なのは、「繰越利益剰余金」という科目ですね。ちょっと利益剰余金の中身を見ていただきたいと思いますが、「利益準備金」、これはいいですね。それから、「その他利益剰余金」というのがありまして、その中に「○○積立金」と「繰越利益剰余金」がある。今までだったら、「その他利益剰余金」の中に○○積立金と当期末処分利益が入っていたと思いますけれども、繰越利益剰余金になっている。それでは、「繰越利益剰余金」とは一体何かというと、これが従来の当期未処分利益に相当するものという話になってくるわけです。新会社法では、当期末処分利益という考え方はなくなるので、利益準備金や○○積立金等に該当しないものはすべて、繰越利 益剰余金ということになります。
 ところで、貸借対照表はこのように変わりますか、損益計算書も変わります。次の55ページをご覧ください。損益計算書の末尾3行は、ふつう、  当期純利益    前繰越利益    当期末処分利益 となっています。税引後の当期純利益に前期繰越利益を足して、一番下が当期末処分利益 という形です。当期末処分利益から先は、利益処分ということになります。今後は、損益 計算書のエンドは、当期純利益になります。  これから先はどこに行くのかというと、先ほどの株主資本等変動計算書の中に「当期純 利益」という項目がありましたね。あそこに出て来るのです。損益計算書の「当期純利益」 から先は、株主資本等変動計算書の役割分担になるのです。  このように、決算書も大きく変わります。恐らく新会社法の施行は06年5月からになり ますから、3月決算の会社の場合は07年の3月期からになりますね。まだ余裕はあります が。役員賞与の費用処理についても、3月決算の場合は07年の3月期からということになります。そうすると、一番大麦なのは、06年5月決算の会社という話になります。新会社 法の施行後、一番最初に期末を迎えることになりますからね。
 巻末資料の47ページのpoint42、利益準備金の積み立て基準なども変わりますよという話になっています。ここも一度目を通しておいてください。利益準備金積み立て基準、特 に経理の責任者の方、あるいは経理の担当の役員の方にとっては、非常に大事ですよね。
 準備金の積み立て基準も変わりますけれども、取り崩し基準も大きく変わります。従来、準備金を取り崩す場合には、資本金の4分の1は残さないといけないという基準かありましたけれども、最低資本金がなくなったのと同じで、全額取り崩してもよいということに なりました。承認手続き、しかるべき法的手続きさえ踏めば、全額取り崩すことも可能ということです。だから、全額取り崩して、配当をすることもできる、という話になってく るわけです。ところで、新会社法の下では、資本剰余金と利益剰余金の混同禁止の原則から、利益準 備金の資本組入れや利益剰余金の資本組入れができなくなります。  非上場の同族会社にとって、これらは手ごろな増資の手段であっただけに、たいへん残 念なことです(巻末資料のpoint43、48ページ~をご参照ください)。

 

32「合併」のスタイルは劇的に変わる

 最後にもう一つ、どうしても組織再編の関係のお話をしておきたいと思います。 巻末資料のpoint47~48(63ページ~)というところです。「組織再編」といいますと、合併とか、会社分割とか、株式交換とか、いろいろと複雑な手法がありますけれども、一番わかりやすい合併のケースでお話をしたいと思います。たとえばA社とB社があります。それぞれ株主がいるわけですが、B社にはP社という親会社 があって、B社はP社の100%子会社です。このたび、A社はB社に吸収合併されることになりました。
 普通の合併ですと、合併と同時に、B社は、A社の株主に、B社の株式を発行しなければならないということで、B社は、旧A社の株主に対してB株式を発行します。すると、この合併後、B社はP社の100%子会社ではなくなってしまいます。なぜなら、合併により、旧A社の株主が、新たにB社の株主となるからです。現行の合併では、こういった問題が起きます。
 ところが、新会社法におきましては、違ってきます。先ほど、B社がA社を合併するにあたって、A社の株主に対してB社の株式を交付すると言いましたが、この交付されるB社の株式のことを合併の対価と呼びます。新会社法におきましては、この「合併の対価」が柔軟化されます。どちらかと言うと、「合併の対価」の種類が自由化されると言うほう が適切かも知れません。
 たとえば、合併の対価として現金で払うこともできます。もし、B社かお金をいっぱい持っているとしたら、B社の株式を交付するのではなくて、現金で清算してしまうこともできます。そうすると、合併しても、A社の株主は、B社の株主にはならないでしょう。P社との100%の親子関係はキープできますよね。A社の株主とはおさらぱですよと、よその株主とは縁か切れてしまうわけですね。まさに手切れ金を支払う、こういう方法がとれるわけです。これは、既にアメリカでやられている手法で、キャッシュアウト・マージャーと呼ぱれています。新会社法では、こういうこともできるようになります。
 それから、もう一つ方法として、たとえば、B社が外国の会社の100%子会社である 場合です。つまり、P社は外国の会社で、B社はP社の日本法人ですね。そのB社かA社を吸収合併した場合です。合併しますと、P社との100%の親子関係か崩れてしまいます。ではどうするかというと、あらかじめB社はP社の株式を持っておくわけです。P社は外国の会社だから現行の商法では問題はないのですけれども、これが日本の会 社だったら、子会社は親会社の株式を持てないですよね。けれども、新会社法では、合併対価として親会社の株式を持つことは、例外的に認められます。そして、B社は合併の対価として、あらかじめ取得しておいたP社の株式を交付する。そうすると、旧A社の株主は、B社の株主ではなくて、P社の株主になるというわけです。これだと、P社とB社との100%の親子関係は崩れないですよね。100%の関係はキープされます。
 確かに、P社には、新しく旧A社の株主が入って来てしまいますけれども、B社との1 00%の関係はキープしたままで、A社を吸収することができる。こういうことも可能になります。このような合併のことを三角合併と呼びます。
 ところで、ニッポン放送事件などがあったために、外国の会社がこういった方法で 日本の会社をどんどん買収するのではないかと懸念されてまして、今お話しした二つの方法などについては、1年遅れの施行ということになります。本来ならば、06年の5月から施行でしょうけれども、この制度については、07年の5月からの施行、その間に敵対的買収防術策を講じておいてくださいよ、ということです。
 しかし、もともと合併というのは両者の株主が合意して行うわけでしょう。その決議の要件につきましても、通常よりも厳しくなっています。敵対的買収なんかできっこないですよね。私としましては、施行日を遅らせた趣旨が、いま一つよくわかりません。
 それから最後にもう一つ、先ほどのpoint37(資料編38ページ)で、現物配当とありましたね。組織再編で、あれを活用することもできるのです。
 たとえば、ここに親会社P社がありまして、100%子会社としてS社があります。つまり、このP社というのは、S社の株式を100%持っているわけですね。そこで、このS社の株式を全部、株主に現物配当してしまうとどうなるでしょうか。現物配当後は、P社とS社は兄弟会社になってしまいます。今までは親子関係だったけれども、このような現物配当をすることによって、兄弟関係になる。こういう手法で組織再編ができるということです。これは、アメリカでは「スピン・オフ」などと呼ばれ、よく使われている手法だそうです。今後は、こういうことも可能になる。  このように、今後は、いろいろとダイナミックなことができるようになります。同族会社は同族会社なりに、上場会社は上場会社なりに、それぞれの目的に応じて、いろいろダイナミックなことをすることが可能になる、ということですね。新会社法の新しい制度を、 大いに活用していただきたいと思います。

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