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1-07「純資産価額方式」「類似業種比準方式」のどちらが有利?

 

1-07「純資産価額方式」「類似業種比準方式」のどちらが有利?

 このように、純資産価額方式と類似業種比準方式という2つの評価の方式がありますが、それでは、どちらの方式をとるのかということです。
 株価を算定する際には、とりあえず、純資産価額方式と類似業種比準方式の両方とも計算をいたします。
 その上で、純資産価額方式の方が安い場合には、無条件で、評価が安い方の純資産価額方式をとってください。
 要するに、皆様方にとって、評価は安い方がよいわけですよね。
 税金が少なくて済むわけですから。だから、有利な方をとっていただければよいということです。
 ところが、問題となるのは、純資産価額方式の方が、類似業種比準方式よりも高い場合です。
 この場合は、安い類似業種比準方式をとってよいのかというと、そうはいかなくて、会社の規模によって、そのとり方が違ってきます。
 つまり、どちらの方式をどのようにとるのかについては、皆様方の会社の規模によって違ってくるということです。
 それでは、皆様方の会社の規模をどういうモノサシで測るのかというと、一つは売上高、もう一つは従業員数(プラス総資産額)、というふうに考えていただければよろしいかと思います。
 細かな点につきましては、顧問の先生に任せればいいと思うのですけれども、大まかなポイントとしては、売上高と従業員の数によって会社の規模が測定されると考えてください。
 これにより、皆様方の会社の規模を、大会社、中会社の大、中会社の中、中会社の小、それから小会社というふうに、5つの規模にランク分けするのです。
 次ページの図表6は、そのランク分けのための基準表です。  ランク分けをする場合には、まず、卸売業か、小売・サービス業か、それ以外の業種かによって、それぞれ売上高の基準、あるいは従業員数等の基準が違っています。(図表6)
 皆様方の会社の業種に該当する欄を見ていただき、ランク分けしていただきます。
 ちょっとマニアックな話ですが、たとえば、売上高基準では中会社の大になりました。ところが、従業員数等の基準では中会社の中になりました。それでは、どちらをとるのかという場合には、規模の大きい方をとっていただいて結構です。
 実は、規模が大きい方が、皆様方にとって有利になるのです。
 だから、納税者有利に考えればよいわけで、規模の大きい方をとっていただいて構わないということです。
 このようにして、皆様方の会社を規模別にランク分けしましたら、48ページの図表7の過程へと進みます。
 この図表の見方について、簡単にご紹介しておきますと、まず、大会社の場合には、類似業種比準方式でよいということになります。
 類似業種比準方式の方が、評価が安いわけですから。大会社の場合ですと、純資産価額方式が安ければ純資産価額方式がとれるし、類似業種比準方式の方が安ければ類似業種比準方式をとれるということになっていて、どちらか有利な方をとれることになります。
 ところが、中会社、小会社になってくると、そうはいかない。今は、類似業種比準方式の方が安いという前提でお話していますから、中会社の大の場合でしたら、有利な類似比準方式の方を90%、評価が高くて不利な方の純資産価額方式を10%ミックスしてくださいということになります。
 だから、9割部分は有利な方、1割部分は不利な方をとって、折衷してくださいという話になります。
 この折衷割合が、会社の規模が小さくなるに従って、どんどん皆様方にとって不利になる傾向にあります。
 中会社の中ですと75%ですし、中会社の小ですと60%、小会社になると50%しか類似業種比準方式を使えないということになってきます。
 規模が小さくなればなるほど不利になるということが、おわかりいただけると思います。
 どういう訳かはわからないのですが、この評価方法につきましては、大会社の方が有利になるような考え方になっているのです。
 ですから、従業員の多い会社、あるいは売上高の多い会社の方が、相続税評価上は有利になる仕組みとなっている。これを知っておいていただければと思います。

 

1-08持株会社は類似業種比準方式が使えない

 さて、純資産価額方式と類似業種比準方式という2つの評価方法について、もう少しお話をさせていただきたいと思います。
 先はどもご説明したように、純資産価額方式というのは財産中心の評価方法ですから、株価は、短期間でそれほどは変わらないですよね。毎年々々、大幅に変動するということはないと思います。
 もし、純資産価額方式の株価が大きく変動するとすれば、それは大変なことです。
 大きな不動産を買ったり、大型の設備投資をしたりと、まさに経営の根幹にかかわる一大事業という話になってきます。
 ですから、純資産価額方式の方の株価が大きく変動するということは、あまりないと思うのです。
 むしろ、着実に、少しずつ株価が上がっていく、というイメージになるのではないかと思います。
 ところが、類似業種比準方式というのは業績による影響を大きく受けますから、年によって大きく増えたり、あるいは減ったりという話になってきます。
 これは自然体でいった場合の話ではありますが、皆様方の会社の数字次第では、異常な株価が出る可能性もあります。
 このことは、一方で、類似業種比準方式については、人為的に、株価操作がしやすいということも意味しています。
 このように、類似業種比準方式の方は比較的変動しやすく、場合によっては株価が大きく変動する。
 このため、場合によっては適正な株価が算定されない、そういうような評価方法になっているわけです。
 それで、この評価方式になじまない一定基準の会社については、類似業種比準方式は使えないという決まりが設けられています。
 もっとも、このようになった発端というのは、過去において、様々な株価引下げ策や節税策が横行し、それに対する規制策が設けられ、こうしたイタチごっこの結果ではありますが。
 たとえば、休眠中の会社については、類似業種比準方式は使えません。
 これについては、当然ですよね。休眼中の会社というのは、利益はないでしょうし、配当もしていないでしょうから、2つの要素が全く使いものにならないわけです。
 したがって、そういう会社については、類似業種比準方式は使えないということです。
 今の場合は、特殊な会社の話でしたが、比準要素の2つがゼロの会社、たとえば、無配で赤字のような会社は、その状況によっては、類似業種比準方式の採用が大幅に制限される可能性があります。
 さらに、運悪く、債務超過にもなってしまいましたという場合には、もはや類似業種比準方式は全く使えない状態になってしまう可能性もあります。
 それから、もう一つは、いわゆる財産保有会社や持株会社、つまり、財産を所有することだけを目的とする会社とか、株式を持つことだけが目的とされるような会社ですね。
 そういう会社についても、原則として類似業種比準方式は使えない。そういう会社は財産を持つこと自体が目的ですから、当然、類似業種との業績比較なんて関係ないでしょう。所有財産の評価が中心である純資産価額方式が、一番合っているのではないかということで、そういう会社については、類似業種比準方式が使えません。
 総資産のうちに、一定の割合以上土地を保有している会社、あるいは一定の割合以上株式を保有している会社については、そういう規制がかけられます。
 土地保有特定会社とか、株式保有特定会社に対する規制です。
 この辺のところについては、皆様方、よくご存じだと思いますので、これくらいにさせていただきます。
 いずれにしろ、必ず毎年、株式を評価していただいて、株価が下がったタイミングを、決して見逃さないということが大切です。
 くり返しになりますが、その辺が、重要なポイントです。
 そのためには、やはり、毎年株価を算定していないと、どの時点で株価が下がったのか、わからないですね。
 株式を評価するための計算式には、いろいろな条件がついていて、たいへん複雑ですから、どういうタイミングで株価が下がるのか、意外と見当がつかないものなのです。
 これは、私たち専門家でも、意外とわからないものです。
 実際に株価を計算してみると、「え、あの時点ではこんなに下がっていたのに、今では、こんなに高くなってしまった。」といったことがよくあります。
 算定結果を見て初めて、はっと気がつくことが非常に多い。ですから、やはり、定期的に株価を出してみるということが、非常に大事だと思います。
 必ず、毎年、株価を算定するという習慣をつけていただければよろしいかと思います。

 

1-09「相続税評価額」は「時価」ではない

 ここで、もう一つ確認しておきたいことがあります。
 今お話した評価方法ですが、これはあくまでも「相続税」評価額の算定方法です。
 これを再確認していただきたいと思います。
「相続税」評価額と強調したのは、要するに、相続税とか贈与税を計算する上での評価額ということです。
 最近、未上場会社でも、M&Aが増えつつあると聞いています。
 一般的に、会社を売ったり、買ったりするときに、その時の株価は、この相続税評価額でよいのでしょうか。
 また、だんだん日本人も権利意識が強くなってきており、今後、株主と会社との間で、株式の売買価額の交渉をしなければいけない局面も出てくると思います。
 そのようなときに、この相続税評価額は一つの参考株価にはなりますけれども、オールマイティーではないというところにご注意していただきたいと思います。
 つまり、相続税評価額と時価というのは、別物だということです。
 時価というものがありまして、それとは別の次元で、相続税評価額があるという話になります。
 「相続税評価額すなわち時価」ではないということを、しっかりと認識しておいていただきたいと思います。
 株主から買取り請求が来るとか、M&Aをするとか、また、そういう事態ではなかったとしても、たとえば、皆様方の同族グループ内で、個人が持っている株式を持株会社に売るとか、あるいは自己株式として会社が買い取るとか、そういうケースがいろいろと出てくると思うのです。
 そのときに、売買価額は、果たして、相続税評価額でよいのかという問題があるわけです。
 結論から言うと、相続税評価額では不完全だということです。
 ここで、ちょっとまとめさせていただきます。
 株式を売買するという状況を思い浮かべてもらいたいのですが、まず、売り主と買い主がいます。
 売り主も買い主も、お互いに身内同士という前提で考えてください。
 他人が入ってきますと、もっと条件設定が複雑になってきますので。
 まず、売り主が個人、買い主も個人のケースです。
 つまり、お身内同士、親族間で売買しましたといった場合です。
 つぎは、売り主は個人、買い主は法人のケースです。
 皆様方のグループ会社が、株式を買い取りますよ、といった場合です。
 今度は、逆に、売り主は法人、買い主は個人のケースです。
 グループ会社間でお互いに株を持ち合っていたので、それを解消するために個人が買い取りました。
 そういったケースを想定していただければよいと思います。
 それから、最後に、売主も、買主も法人のケース。
 つまり、同じグループ会社間で株式を売買する場合です。
 これら各ケースのうち、将来的には変わるかも知れませんが、現状の税法で相続税評価額が使えるのは、①のパターンだけです。
 現状では、個人対個人の売買に限り、相続税評価額を使って売買しても、おそらく当局のお咎めはないだろうという状況です。
 それ以外のパターンにおいては、すべて時価ということで、相続税評価額ではだめという話になります。

 

1-10「時価」は「相続税評価額」よりも高くなる

 時価と相続税評価額とは、いろいろと違う点はあるのですが、大きな違いはやはり純資産価額方式の計算の仕方と、原則的には類似業種比準方式が使えないということです。
 とりあえず、類似業種比準方式の問題は別にして、純資産価額方式の話を中心にしたいと思います。  同じ純資産価額方式でも、時価といった場合の純資産価額方式と、相続税評価でいう純資産価額方式とは、評価のやり方が違います。
 相続税評価でいう純資産価額方式というのは、たとえば相続とか贈与があった時点で会社を清算した場合に、株主に対してどれだけの分配金があるのか、という考え方に基づいています。
 つまり、会社の清算を前提にしているわけです。
 ところが、時価といった場合には、そもそも清算を前提にして会社の売買なんかしませんから、清算価値ではありません。
 それでは、どういう違いがあるのかということですが、もう一度、31ページの図表3を見ていただきたいと思います。
 まず、一つの大きな違いは、この評価益の税金部分ですね。
 いわゆる42%控除。会社の清算をすると、この部分については外部に流出しますから、マイナスしてもいいですよという話でしたね。
 ところが、清算を前提にしないわけですから、この税金は発生しないということになる。
 少なくとも、この分だけは、評価上プラスになります。
 もう一つは、各資産を時価に置き直しますけれども、この場合の置き直す時価というのは本来の時価ですから、相続税評価額に置き直すわけではないということです。
 そうしますと、たとえば、土地については路線価評価ではだめということになります。
 ご存知のとおり、路線価は、時価の8割ぐらいの値段で設定してあるのです。
 毎年7月1日頃に、その年の路線価が公表されるのですが、これは、その年の1月1日時点での鑑定評価等、つまり不動産鑑定士が時価評価したもの等を参考にして、これに8掛けしたものを路線価として公表しているようなのです。
 ということは、時価よりも2割ぐらいディスカウントされているという話になります。
 少なくとも、土地については、単純に路線価を使うことはできない。
 そういったところが、大きく違ってくる点です。
 細かい評価のやり方はともかくとして、要するに、相続税評価額よりも時価のほうが間違いなく高くなるというのは、おわかりいただけましたよね。
 評価益の42%部分の控除がなくて、土地の評価額が高くなるということですから、どうしても相続税評価額よりは高くなる。さらに、類似業種比準方式は、原則として使えないということになります。
 ただし、ちょっとマニアックな話で申し訳ないのですが、課税上弊害がない限りという条件付きで、時価上の純資産価額方式と類似業種比準方式とを50%ずつミックスすることが認められています。
 だから、時価上の純資産価額を50%、それから類似業種比準価額を50%ミックスした価額でもよい、課税上弊害がなければ、それも認めますという規定になっています。
 いずれにしろ、結論を急ぐと、相続税評価額よりも時価の方がずっと高いということを認識していただければよろしいかと思います。
 ですから、先ほどのケース②~④の売買で相続税評価額を使いますと、税務署から否認される可能性もあるということを、認識しておかれた方がよいと思います。

 

1-11身内同士でも株式評価が安くなるケースがある

 先ほど、お身内の方が相続や贈与で株式を取得した場合と、お身内でない方、いわゆる他人が相続や贈与で株式を取得した場合とでは、株式の評価方法が、随分異なるという話をしたと思います。
 しかし、これは原則としてのお話です。
 何か言いたいかというと、同じお身内であっても、安い評価、つまり他人が相続や贈与で株式を取得した場合と同じ評価を使えるケースがあるということです。
 こういう規定が、今のところ残されています。
 この規定は、将来的には廃止されるかもしれませんが、現時点では活きています。活用できるのであれば、ぜひ活用していただきたいと思います。
 会社オーナーの代替わりが進んで行くと、だんだん親族間で株式が分散して行くのではないでしょうか。
 そういう会社において、この規定は使えるのですね。
 また、現オーナーさんが2代目であっても、意外と、これを使える可能性があります。
 もっとも、これには、「両刃の剣」的な要素がありまして、あまりこれを頻繁にやりますと、どんどん親族間で株式が分散してしまいます。
 それが会社の将来にとってよいのかどうか、という問題が残ります。
 ともかく、こういう話をしていても先に進みませんので、最もシンプルな例で説明させていただきます。
 前提条件として、株主は全員、個人株主で、法人株主はいないとします。
 今、社長さんが、自分のお子様に株式を贈与したいと考えたとします。
 お子様は、まだ学生で、会社の役員ではありませんし、会社に入るのもまだ先の話です。
 社長さんは、贈与後におけるお子様の議決権割合が5%未満におさまる範囲内で、贈与をすることにしました。
 そこで、社長さんがお子様に株式を贈与した直後を想定して、つぎのような議決権割合のチェックをします。
 まず、現在の社長さんを中心にして、
 ・直系の血族(祖父母・父母・子・孫など)
 ・兄弟姉妹
 ・配偶者
 二親等の姻族
 が持っている議決権をトータルした場合、その議決権割合は25%以上か。多くの同族会社におきましては、この点については問題ないでしょう。
 今度は、株式をもらったお子様を中心にして、その直系血族、兄弟姉妹、配偶者、一親等の姻族が持っている議決権をトータルします。
 そして、この議決権割合が25%未満であるとオーケーです。
 今度は、お子様を中心に兄弟姉妹ということですから、社長さんの兄弟姉妹は、「おじさん」や「おばさん」になりますので、トータルする対象に入ってきません。
 したがって、こういうことって、当然あり得ますよね。社長の兄弟姉妹の議決権が外れてしまいますから、25%未満になるということは、現実的に不可能ではないと考えられます。(図表8参照)
 こういったケースでは、社長さんからお子様への贈与は、安い評価額、いわゆる他人に贈与する場合と同じ評価額、配当還元価額になりますから、1株あたりの配当金額の10倍の評価額でよいということになります。
 それこそ、100円とか500円とか、そういうレペルの評価額で株式を贈与することができます。
 ただし、前提条件として、贈与した後でも、お子様の議決権割合は5%未満でないといけない。
 贈与できるのが5%未満ではないですよ、すでに持っている分も含めたところで5%未満。
 だから、最大でも、5%未満しか贈与できないことになります。
 少数の株式の移動という話になってきます。
 それと、お子様は会社の役員ではない、あるいは、当面なる予定がないという前提です。
 この場合の役員とは、おおよそ、社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役等、その他これに準ずる役員、監査役等のことをいいます。
 また、役員になる予定とは、その贈与税や相続税の申告期限までに役員になることを指します。
 つまり、すぐに役員になることがわかっている場合です。(図表9参照)