書籍 同族会社のための「事業承継」

今年の税金改正では、「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予制度が創設されました。この制度を選べば、事業承継の相続税の負担が猶予される可能性も出てきました。セミナーの人気講師でもある西村昌彦税理士が、今回事業承継を検討する経営者の立場で法活用を伝授する一冊。会社法や税法の解説から綴られた「法解釈本」とは一線を画す、実用的ノウハウ本です。

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1-11身内同士でも株式評価が安くなるケースがある

 先ほど、お身内の方が相続や贈与で株式を取得した場合と、お身内でない方、いわゆる他人
が相続や贈与で株式を取得した場合とでは、株式の評価方法が、随分異なるという話をしたと
思います。
 しかし、これは原則としてのお話です。
 何か言いたいかというと、同じお身内であっても、安い評価、つまり他人が相続や贈与で株
式を取得した場合と同じ評価を使えるケースがあるということです。
 こういう規定が、今のところ残されています。
 この規定は、将来的には廃止されるかもしれませんが、現時点では活きています。活用でき
るのであれば、ぜひ活用していただきたいと思います。
 会社オーナーの代替わりが進んで行くと、だんだん親族間で株式が分散して行くのではない
でしょうか。
 そういう会社において、この規定は使えるのですね。
 また、現オーナーさんが2代目であっても、意外と、これを使える可能性があります。
 もっとも、これには、「両刃の剣」的な要素がありまして、あまりこれを頻繁にやりますと、
どんどん親族間で株式が分散してしまいます。
 それが会社の将来にとってよいのかどうか、という問題が残ります。
 ともかく、こういう話をしていても先に進みませんので、最もシンプルな例で説明させてい
ただきます。
 前提条件として、株主は全員、個人株主で、法人株主はいないとします。
 今、社長さんが、自分のお子様に株式を贈与したいと考えたとします。
 お子様は、まだ学生で、会社の役員ではありませんし、会社に入るのもまだ先の話です。
 社長さんは、贈与後におけるお子様の議決権割合が5%未満におさまる範囲内で、贈与をす
ることにしました。
 そこで、社長さんがお子様に株式を贈与した直後を想定して、つぎのような議決権割合のチ
ェックをします。
 まず、現在の社長さんを中心にして、
 ・直系の血族(祖父母・父母・子・孫など)
 ・兄弟姉妹、
 ・配偶者
 二親等の姻族
 が持っている議決権をトータルした場合、その議決権割合は25%以上か。多くの同族会社に
おきましては、この点については問題ないでしょう。
 今度は、株式をもらったお子様を中心にして、その直系血族、兄弟姉妹、配偶者、一親等の
姻族が持っている議決権をトータルします。
 そして、この議決権割合が25%未満であるとオーケーです。
 今度は、お子様を中心に兄弟姉妹ということですから、社長さんの兄弟姉妹は、「おじさん」
や「おばさん」になりますので、トータルする対象に入ってきません。
 したがって、こういうことって、当然あり得ますよね。社長の兄弟姉妹の議決権が外れてし
まいますから、25%未満になるということは、現実的に不可能ではないと考えられます。(図
表8参照)

こういったケースでは、社長さんからお子様への贈与は、安い評価額、いわゆる他人に贈与
する場合と同じ評価額、配当還元価額になりますから、1株あたりの配当金額の10倍の評価額
でよいということになります。
 それこそ、100円とか500円とか、そういうレペルの評価額で株式を贈与することがで
きます。
 ただし、前提条件として、贈与した後でも、お子様の議決権割合は5%未満でないといけな
い。
 贈与できるのが5%未満ではないですよ、すでに持っている分も含めたところで5%未満。
だから、最大でも、5%未満しか贈与できないことになります。
 少数の株式の移動という話になってきます。
 それと、お子様は会社の役員ではない、あるいは、当面なる予定がないという前提です。
 この場合の役員とは、おおよそ、社長、副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役等、
その他これに準ずる役員、監査役等のことをいいます。
 また、役員になる予定とは、その贈与税や相続税の申告期限までに役員になることを指しま
す。
 つまり、すぐに役員になることがわかっている場合です。(図表9参照)

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