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本店とはそもそも、会社の主たる営業所であり会社の事業の本拠となる場所をいいます。本店所在地は、会社の定款に必ず記載され、また商業登記にも掲載されます。
会社法では、本店所在地を会社の住所とすると定められています。したがって、税務署などの管轄は本店所在地によって決定されます。このため、全国に複数の支社を持つような大手企業でも本社機能を置く場所を本店所在地とすることが多いといえます。もっとも、本社という概念自体は法律上のものではないため、本店所在地と異なる場所に本社機能を設置することも可能です。
例えば、地元で創業した会社が成功して東京や大阪といった大都市に本社機能を移転しつつ、本店所在地は創業の地に残しておくようなこともあります。
会社の本店所在地をどこにするかについて法律上の制限はありません。
ただし、上で説明したとおり、会社を設立すると本店所在地を管轄する税務署や役所に届出や手続などのために出向く必要が生じるため、あまりに本店所在地が生活や事業の本拠地から離れていると無駄な手間がかかることも多いといえます。
また、本店所在地は商業登記に掲載されます。商業登記は誰でも閲覧することができ、新規取引の際の審査では、取引先は必ずといっていいほど登記の記載内容を調査します。したがって、本店所在地はそのような審査に耐えうる場所であることも考慮する必要があります。
極端な例ですが、人のほとんど住まない山奥や、事業の内容にそぐわない歓楽街に本店所在地がある場合、会社の実在を疑われるなどによって取引を開始できない可能性もあるということです。
許認可が必要な事業の場合、本店所在地について一定の制限があるケースがあります。例えば、不動産業を始める場合には宅地建物取引業免許を取得する必要があるところ、免許申請の審査の際に事務所の状況が確認されます。
具体的には、宅地建物取引業に使用する事務所は継続的に業務を行うことができる施設である必要があり、かつ他業者や個人の生活(居住)部分から独立している必要があるとされています。
このため、後で説明するバーチャルオフィスを本店所在地とすることはできません。また、自宅を不動産業の本店所在地とする場合には、生活に使用する部分と事務所部分とを物理的に仕切るなどの工夫が必要となります。
会社の本店所在地は、定款と商業登記に記載されます。定款における本店所在地の記載方法としては、市区町村名までの最小行政区画を記載する方法と地番まで記載する方法の2つがあります。
最小行政区画のみの記載とした場合、本店所在地の移転が同じ市区町村内であれば定款の変更は不要となります。このため、定款における本店所在地の記載は最小行政区画までとする会社が多いといえます。
他方、商業登記においては本店所在地を地番まで記載する必要があります。ただし、ビル名までの記載は必須ではありません。ビル名はオーナーチェンジなどの事情で変更されることもあるため登記に記載しない会社も多いでしょう。
オフィスを会社の本店所在地として賃貸する場合、契約名義に少々注意が必要です。
会社は設立登記をもって成立するため、会社の設立準備をしている期間にはまだ会社は存在していません。このため、オフィスの賃貸契約は会社名義ではできないのです。
このため、当初は発起人などの個人名義で賃貸契約を締結し、会社設立後に法人名義に変更する必要があります。このほか、設立準備期間中に内装工事や什器の搬入などでオフィスを利用する必要がないのであれば、当初は設立を予定している会社名で仮契約をし、会社設立後に本契約をすることもあります。
どのような方法をとるにせよ、事前に貸主に事情を説明して了承を得ておく必要があります。
賃貸オフィスとは、オフィス街にあるオフィスビルのような事務所用の物件です。多くは、最初から事務所用に設計されているため風呂やキッチンなどはありませんが、入居者が内装工事を行うことができるため自由にオフィスをレイアウトすることができます。
賃貸オフィスを本店所在地とするメリットは、なんといっても取引先から信用を得やすい点です。きちんと会社として事業を行っていることを取引先に印象付けられますので、新規取引の機会も増えやすくなります。また、もともと事務所用の物件であるため、商談などで頻繁な来客がある場合でも他のテナントにそれ程遠慮する必要がありません。
一方で、賃貸オフィスを本店所在地とした場合には、コストがかかるというデメリットがあります。
事務所用物件の場合、住居用物件と比較して賃料が割高であることが多いといえます。また、都心の一等地の物件だと敷金または保証金が賃料の半年分以上かかることも珍しくなく初期費用がかさみます。
大口顧客からの受注が確実であるような場合をのぞいては、会社設立当初はなかなか売上が上がりにくいため最初からコストのかかる賃貸オフィスを選択することについては慎重な検討が必要でしょう。
レンタルオフィスとは、一人用または二人用の小さなスペースの個室または専用席を賃貸するものです。会議室や給湯設備、トイレなどは他の入居者と共用となります。近年、大都市圏を中心にレンタルオフィスが増加しています。多くは会社登記も可能となっていますが、念のため事前に確認をした方がよいでしょう。
レンタルオフィスのメリットは、賃料が低く抑えられる点です。また、敷金や保証金については賃料の2か月分程度であり賃貸オフィスと比較すると格安です。したがって、初期費用をあまりかけたくない会社設立時期においては有効な選択肢となります。
レンタルオフィスのデメリットとしては、一つの部屋が狭く、利用できる人数に制限があることも多いため、会社が成長したらすぐに移転を余儀なくされる点です。また、専用スペースが狭いため資料や商品を多く保管する必要がある業種には向かないといえます。
このほか、レンタルオフィスは会議室が共用となるため、自社でミーティングを行う機会が多い業種の場合には、会議室の予約が取りやすいかも確認することをおすすめします。
なお、レンタルオフィスに似たものとしてシェアオフィス(コワーキングスペース)と呼ばれる形態のオフィスがあります。シェアオフィスは、専用の個室がなく自由にオフィス内のデスクを利用するシステムとなっています。会社設立登記が可能となっているシェアオフィスもあります。
シェアオフィスはレンタルオフィスより更に賃料が安いことが多いため、コストを圧縮したい場合にはシェアオフィスも検討の対象となるでしょう。
ただし、シェアオフィスについては、他の人に話を聞かれることのない個室の会議室があるのか、会社の機密資料を安全に保管できるのか等をよく確認する必要があります。
バーチャルオフィスとは、住所のみを会社の本店所在地としてレンタルするものであり、基本的にはそのオフィスで仕事をすることはできません。ただし、最近ではシェアオフィスを併設しているバーチャルオフィスもあります。
会社の本店所在地宛に届いた郵便物は、自宅など指定の住所に転送してもらえるサービスが付帯していることが多いです。
バーチャルオフィスのメリットは、都心の一等地の住所を格安で借りることができる点にあります。したがって、対外的な信用力も維持しながらコストを抑えたいという会社にとっては非常に魅力的といえます。
ただし、実際に仕事をするためのオフィスとして利用することはできないため、仕事は自宅などで行うことになります。このため、もともと自宅でフリーランスとして仕事をしていたデザイナーやプログラマー、ライターといった人たちが法人化するような場合に適しているといえます。
また、法人化していない場合でも、自宅で仕事をしているフリーランスの人が取引先との契約の際に自宅住所を開示することを避けるためにバーチャルオフィスに住所を借りることもあります。
ただし、会社については商業登記に代表取締役の自宅住所が掲載されることになっています。したがって、会社の代表者となる場合にはバーチャルオフィスを利用することによって自宅住所を隠すメリットを享受できない点に留意しましょう。
バーチャルオフィスのデメリットとしては、会社の仕事をするための場所がないため人を雇うことが難しくなる点が挙げられます。
また、バーチャルオフィスのメリットとして、都心の一等地の住所を借りることで対外的な信用力が上がる点を挙げましたが、住所を検索すればそれがバーチャルオフィスであることがすぐにわかってしまう場合も多いのです。このため、かえって信用力が低下しないかについてもよく検討すべきです。
これに加え、バーチャルオフィスを会社の本店所在地とした場合、税務署等の管轄もその本店所在地により決まることとなります。このため、実際の作業場所である自宅から離れている場合、手続等のため何度もバーチャルオフィスの住所地まで出向く必要が生じます。したがって、都心の一等地だからという理由だけで決めるのではなく、実際の手間なども考慮する必要があります。なお、バーチャルオフィスにおいて若干注意が必要となるのが郵便物の転送サービスです。実際に転送されるまでにある程度の期間を要するため、重要な書類が提出期限後に転送されてくる可能性があります。このため、書類のやり取りが多い会社の場合には、バーチャルオフィスは向かないことがあります。
最後に自宅を会社の本店所在地とする場合です。もともと、自宅で作業をしていたフリーランスの人が法人成りするような場合には一度は自宅を本店所在とすることを検討するのではないでしょうか。人を雇用する予定もない場合には自宅を本店所在地とすることも十分選択肢となり得ます。
自宅を会社の本店所在地とするメリットは、コストが全くかからないことでしょう。また、自宅の部屋の一部を事務所として利用している場合には、税務申告の際に自宅賃料の一部を経費とすることも可能です。
これに加え、バーチャルオフィスの場合に問題となる郵便物の転送が遅れるリスクもなく、また税務署等の管轄が遠方になることの手間もありません。
ただし、自宅が賃貸物件である場合には、自宅を会社の本店所在地とすることに大きな壁が立ちはだかっています。それは、賃貸契約において通常は事務所利用が禁止されていることです。これが、自宅を会社の本店所在地とすることの最大のデメリットといえるでしょう。
来客がほとんど無い会社であれば他の入居者にも迷惑がかかることがないので問題ないと考えるかもしれません。しかし、貸主側からすると住居用であれば賃料に消費税がかからないのに対し、事務所用となれば消費税がかかるなど大きな違いがあります。このため、事務所として無断使用されることは一般的に禁止されているのです。
もっとも、賃貸契約で事務所利用が禁止されている場合でも、貸主が承諾すれば利用は可能となりますので、一度貸主に打診してみてもよいでしょう。ただし、少なくとも賃料に消費税が加算されることになるため、賃料の増額は覚悟しなければなりません。
以上のデメリットは、自宅が賃貸住宅である場合のものです。したがって、自宅が持ち家である場合には問題は生じません。ただし、自宅が持ち家でもマンションである場合には管理規約で禁止されていることがあるので事前によく確認しましょう。
今回は会社の本店所在地の決め方について説明しました。会社設立は必要な手続が多く煩雑です。定款作成や会社設立登記については、税理士や司法書士などの専門家に相談することで、迅速かつ正確に手続を進めることができます。どのような事務所に相談するべきかわからないという場合は、まずは本サイトの窓口へ問い合わせてみましょう。