類似商号規制の撤廃とは?それでも類似商号調査が必要な理由

会社を設立する際には、まず会社名を決める必要があります。会社名には事業の理念などを盛り込むことも多く、相当の思い入れをもって決めることが一般的でしょう。会社名について、従来は既存の会社と類似する名称を付けることに一定の制限がありました。現在はこのような制限は撤廃されていますが、それでも他社と混同するような会社名を付けることはトラブルを引き起こすおそれがあります。今回は、会社名の付け方について他社と類似した名称を付けることのリスクと対処法を中心に説明します。

1. 会社名のルール

会社名って自由に付けていいのかな?
さとし君
創業者の名前とか会社の理念とかを込めた会社名はよく見るわね。でも、完全に自由だとしたら、「株式会社☆」でもいいことになっちゃうから何かルールはあるんじゃないかな。
アンナ先輩
松浦弁護士
アンナ先輩のいうとおりです。会社名には法律上のルールがあって、使える文字も決まっているのですよ。このほか、使ってはいけない言葉というのもあります。
マリオ教授
例えば、さとし君の会社が「株式会社さとし銀行」だとお客さんが本物の銀行と混同してしまうかもしれない。このような事態を避けるために一定の歯止めがかかっているということだね。

会社名のことを、法律上「商号」といいます。会社名については、基本的には自由に決めることができるのですがいくつかの制約はあります。

1-1.会社名に使用する文言

株式会社であれば会社名の前または後にかならず「株式会社」の文言を入れる必要があります。一方で、「銀行」などの文言は銀行業を営む会社しか使用できないこととされていますので、このような文言を会社名に使うことはできません。

1-2.会社名に使用できる文字

会社名として使える文字にも決まりがあり、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベッドの大文字・小文字、アラビア数字、&、アポストロフィー( ‘ )、中点(・)、コンマ( ,)、ピリオド( . )、ハイフン(-)は使用可能です。
一方で、これ以外の符号は使用不可能となります。例えば、「!」や「☆」などは会社名として使用することはできません。

2.他社と類似した会社名は付けられる?

お客さんが混同しないために「~銀行」という会社名を付けられないということだけど、銀行ではなくても有名企業と似た会社名を付けると同じような問題が起きそうだね。
さとし君
松浦弁護士
よいことに気が付きましたね!既存の会社と類似した会社名を付けることはブランドのただ乗りや消費者の誤解を招くなど色々な問題があります。
アンナ先輩
昔は、既存の会社と類似した会社名では会社設立登記ができなかったこともあったわ。
マリオ教授
いまは類似した会社名でも登記できるけれど、事後的にトラブルが起こる可能性はあるから注意が必要だね。

会社名を付ける際には、どのような会社でも事業の理念などを込めて思い入れをもって決めると思います。また、タウンページで最初に掲載されるからという理由で「あ」から始まる会社名とするようなこともあり、マーケティングの面からみても会社名には重要な意味があります。
思い入れをもって決めた会社名が偶然に既にある会社と同一または類似していることがあるかもしれません。このような場合、その会社名を使うことに問題はないのでしょうか。

2-1.類似商号規制の撤廃

かつては、同一の市町村内において同一の営業目的で、他の会社と同一または類似する会社名を登記することはできませんでした。これを、類似商号規制といいます。
このような規制があったため、当時は会社を設立する前に類似する会社名があるかを調査する必要があり、会社設立手続の手間がかかっていたといわれています。
しかし、類似商号規制は2006年の会社法施行により撤廃されました。これにより、会社設立前に類似する商号があるかを調査する手間は一応なくなったといえます。
なお、既存の会社名と完全に同一で、かつ本店所在地がその既存の会社の本店所在地と同じである場合には登記することはできません。

2-2.類似商号の利用が違法となる場合

類似商号規制が撤廃されたからといって、会社名は完全に自由に付けられると考えるのはやや早計です。
例えば、家電販売業の会社が「株式会社パナソニック」という会社名だったらどうでしょうか。この場合、一般の消費者は有名なパナソニック社と同じだとは思わないまでも関連する企業ではないかと思うかもしれません。
このように、ブランド価値の高い有名企業の会社名を使うことは消費者や取引先などの誤認を招くおそれがあります。また、本物のパナソニック社にとっても、会社名を利用している無関係の企業が不祥事を起こした場合にブランドイメージが低下してしまう可能性もあり許容しがたいことといえます。
このような他社の会社名の不正使用があった場合には、会社法や不正競争防止法に基づいて会社名の使用差し止めや損害賠償を求められることがあります。ただし、会社名の使用差し止めや損害賠償が認められるのは、あくまでも不正な目的をもって他社の会社名やブランド名を使用した場合です。特に、他社の会社名は事前に把握することにも限界があるので、相当の調査を尽くしたにもかかわらず気付かなかったという場合には責任を負わないことがあります。
このように、類似商号規制の撤廃は、会社設立登記の申請時に会社名の事前審査が必要なくなったということを意味するに過ぎません。上で説明したとおり、他社と類似する商号を使ったことにより事後的に他社とトラブルが起こった場合には、損害賠償責任などを負う可能性は残っています。このため、トラブルを回避するためにも設立する会社の商号が他社と類似していないかについて調査することが望まれます。
また、他社の有名なブランド名を利用した場合にも、同様に消費者や取引先を誤認させることがあるため、やはり会社名の差し止め請求や損害賠償請求を受けることがあります。このため、有名ブランドの名称を使用することも避けるべきです。

3.他社の商号やブランド名の調査

類似商号規制が撤廃されたとはいえ、事前に類似する会社名やブランド名がないかを調査することは必要なんだね。
さとし君
他社の会社名やブランドについては比較的簡単に調べられます。トラブルを回避するだけでなく、設立する会社のマーケティングという意味でも事前に調べておくとよいでしょう。
松浦弁護士

他社の会社名やブランド名を侵害していないかを調査するためには、どのようにすればよいのでしょうか。
まず、既存の会社の商号については、法務局にある商号調査簿を閲覧することにより調べることが可能です。商号調査簿の閲覧は無料です。
また、他社のブランド名については商標登録してあることが多いところ、商標登録の有無は独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営するWEBサイト「特許情報プラットフォーム」から調べることができます。
このほか、インターネット検索によって設立する予定の会社の商号を調べることも大切です。自社と同じ会社名が同じ業種を営んでいるような場合、自社の事業が成功したときに逆にブランドにただ乗りされたり消費者が誤って自社ではなく他社に流れてしまったりというリスクもあります。
また、過去に同一の名称の会社が不祥事を起こしていたということもあり得ます。このような会社名は基本的には避けた方がよいでしょう。
設立を予定している会社名がどのように使われているかを調査することは、他社とのトラブルを避けるというだけでなく、自社のマーケティング上も重要な意味を持ちます。

4.会社設立の手続は専門家に相談を

今回は、会社名の付け方に関するルールについて説明しました。会社設立の手続は簡易化されたとはいえ、まだまだ煩雑です。迅速かつ正確に進めるためにはプロに相談すると安心です。会社名の事前調査などは司法書士をはじめとする専門家に相談すれば代わりに確認してくれることもあります。会社設立の手続はどのような事務所に相談するべきかわからないという場合は、まずは本サイトの窓口へ問い合わせてみましょう。

著者情報
松浦絢子 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法科大学院出身。東京弁護士会所属(登録番号49705)。
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