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株主名簿とは、株式会社の株主に関する基本事項および当該株主が保有する株式に関する情報を記載した帳簿です。株式会社は、会社の規模の大小などにかかわらず一律に株主名簿を作成することを義務付けられています。
したがって、株式会社を設立する時点で株主となる者を記載した株主名簿を作成しなければなりません。設立間もない会社では、代表取締役が1人で全ての株式を保有していることも多く、株主名簿をわざわざ用意するのは手間に感じるかもしれません。
しかし、株主名簿は商業登記の申請時や会社設立後に税務署に法人設立届出書を提出する際にも必要となることがありますので会社設立手続と併せて作成しておくとよいでしょう。
なお、株主名簿については後で説明する必要事項が記載されていれば足り、決まった様式などはありません。また、株主名簿は紙媒体のほか電子データで作成および保管をすることができます。
株式譲渡というと上場企業の株式を株式市場において売買することを思い浮かべるかもしれません。非上場企業の株式については市場での売買はありませんが、株式の売買をする当事者同士が合意すれば譲渡することは可能です。なお、設立したばかりの株式会社の多くが定款において株式譲渡について株主総会や取締役会の承認を受ける旨を定めています。このような譲渡制限の定めがある場合には、当事者間で合意するだけでなく譲渡について定款の定めに従って承認を得る手続も必要です。
近年主流となっている株券を発行していない会社の株式を譲渡した場合、株式を取得した人の氏名・名称、住所を会社に届け出ることにより株主名簿上の名義を書き換える必要があります。そして、株主名簿上の名義書換えが行われず旧株主名義のままとなっていると、新株主は会社に対して自身が株主であることを主張できないこととなります。例えば、株主に対して会社から配当金が支払われるようなときに会社が旧株主に配当を渡したとしても新株主は文句を言えないことになってしまうのです。
したがって、新株主が会社や第三者に対して自身が株主であることを主張するためには、株主名簿を書き換えてもらう必要があります。つまり、株式譲渡の対抗要件は株主名簿の書き換えということです。
また、最近では他の企業の傘下に入るM&Aも盛んにおこなわれていますが、M&Aの手法の一つとして買収側の企業に対して自社の全株式を譲渡する方法がよく用いられます。このような方法を用いる際には株主のすべてから株式の譲渡を受けることが必要となりますが、株主名簿が適切に整備されていない場合には株主の探索に大変な手間を要することになります。
仮に、株式名簿上に株式譲渡の記録が適切にされていない場合、株式名簿上に記載の残っている旧株主と買収側の企業との間で株式譲渡に関する契約を締結することとなれば、後から本当の株主との間で大きなトラブルが生じる可能性もあります。実際にも中小企業のM&Aでは、株主名簿が適切に整備されておらず株主を把握できないことが問題点として取り挙げられることがあります。
このように、会社が株主名簿を適切に整備しておらず株主の変動を把握できていないと、後々トラブルの元となることがあるため注意が必要です。
会社法上、株式会社が株主に対して通知等を行う必要がある場合に、会社は株主名簿に記載されている株主の住所宛てに送付すれば通常到達すべき時に到達したとみなされることが定められています。
例えば、株主が住所変更を会社に知らせず居場所が不明となっているような場合に、会社が株主の居場所を探し出さなければならないとすると非常に面倒です。このような場合に備えて会社法は、会社は株主名簿記載の住所宛てに発送すれば通知等をしたものと扱うこととして会社の事務負担を軽減しているのです。
株式会社は、一定の基準日を定めた上で、その基準日時点で株主名簿に記載されている株主を株主総会における議決権の行使や配当の受領といった株式に関する権利行使のできる者と定めることができます。
これを受けて、多くの会社では定款において「会社の事業年度末日の株主名簿に記載された株主を、当該事業年度についての株主総会において議決権等の権利行使ができる株主とする」といったように基準日の定めを設けています。
設立してすぐの会社の場合にはそれほど基準日が役立つ場面は多くないかもしれませんが、上場企業の場合には株主が頻繁に変更されるため、一律の基準日を設けて議決権の行使や配当の受領ができる株主を確定する必要があるのです。
・株主の氏名・名称、住所
・株主の保有する株式数(種類株式発行会社は、株式の種類・種類ごとの株式数)
・株式の取得日
このほか、株券を発行している株式会社については株券番号を株主名簿に記載する必要があります。ただ、現在では株券を発行しないことが原則となっています。このため、会社設立時の定款で特に株券を発行する旨を定めていない限り、株券を発行している会社にはあたらず株券番号を株主名簿に記載する必要はありません。
また、株式に質権を設定した場合や株式が信託財産となる場合には別に記載事項が追加されますが、設立間もない株式会社においてはめったにないことですので説明は省略します。
3.株主名簿の管理方法
株式会社は、株主名簿を本店に備え置くことが義務付けられています。ここで本店というのは、商業登記において本店所在地として記載されている住所地です。
したがって、バーチャルオフィスを本店所在地として登記している場合には、実際に仕事をしているのが自宅などであったとしてもバーチャルオフィス内で株主名簿を保管しなければならないことに注意が必要です。
バーチャルオフィスでは、本店所在地における株主名簿の備え置き義務に対応して書類保管サービスを提供していることがあります。バーチャルオフィスを利用する場合には、事前にこのようなサービスの有無や費用などを確認しておく必要があるでしょう。
なお、株主名簿管理人を定款で定めている会社であれば、会社の本店所在地ではなく管理人の営業所に株主名簿を保管することで足ります。とはいえ、上場企業の場合には株主名簿管理人を置くことが義務付けられていますが、非上場企業の場合には株主の変動がそれ程多くないので株主名簿管理人を置くことはほとんどありません。
なぜ株主名簿を本店所在地に備え置く必要があるかというと、株主および債権者には株主名簿を閲覧する権利があるためです。株式会社は、株主や債権者から会社の営業時間内に株主名簿の閲覧請求を受けた場合には、以下の理由がある場合をのぞいて閲覧に応じなければなりません。
・請求者が自己の権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求するとき
・請求者が会社の業務遂行を妨げたり、株主の共同の利益を害する目的で請求するとき
・請求者が株主名簿の閲覧や謄写によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するために請求するとき
・請求者が過去2年以内に、株主名簿の閲覧や謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるとき
例えば、名簿業者などによる名簿収集目的の株主名簿の閲覧請求は、自己の権利確保や行使に関する調査を目的としないものとして閲覧を拒否することができます。
一方、会社内で経営権をめぐる争いが生じたような場合には委任状勧誘といって株主総会において自分たちの提案が通るように他の株主に対して議決権行使の委任状の提出を求める事態が発生することがあります。この委任状勧誘を目的として株主名簿閲覧請求がされる場合には、拒否事由に該当せず株主名簿の閲覧に応じなければならないという裁判例があります。
今回は株主名簿に関する法的な問題について解説しました。株主名簿の整備は会社設立手続の一環として行う必要がありますが、会社設立当初は株主名簿の重要性が低いため自分だけで会社設立手続を行っているとついつい忘れがちです。
後から株主名簿が必要になったときに慌てないためにも、会社設立手続については税理士などの専門家に相談しておくと安心です。どのような事務所に相談するべきかわからないという場合は、まずは本サイトの窓口へ問い合わせてみましょう。