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法律上、従業員の解雇は大きく分けると普通解雇と懲戒解雇とがあります。そして、普通解雇の中にさらに整理解雇があります。会社の経営者としては、解雇の種類について細かい分類を知っておく必要はないのですが、少なくとも整理解雇と懲戒解雇については大まかな意味と解雇が有効となる要件を知っておく必要があるでしょう。
整理解雇とは、業績悪化等の理由によって会社の事業継続が困難となった場合にリストラ策の一環として行われる解雇のことを言います。整理解雇は、会社側の事情に基づくものである点で懲戒解雇と異なります。
整理解雇自体は法律上の用語ではありませんが、過去の裁判例において事業継続が困難となった場合の解雇の要件に関する判断が蓄積されており、これが事実上のルールとして用いられています。整理解雇の要件に関しては、後述します。
懲戒解雇とは、就業規則に定められた懲戒事由に基づく解雇をいいます。就業規則には、多くの場合に懲戒処分の対象となる懲戒事由が定められています。懲戒事由として定められているのは、例えば次のような事項です。
・刑法犯に該当する場合
・賭博等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
・雇い入れ時の採用条件である経歴を詐称した場合
・一定期間以上正当な理由なく無断欠勤し、会社が出勤を求めても応じない場合
従業員が懲戒事由に該当する行為を行った場合、会社は従業員に対して懲戒処分を行うことができます。この懲戒処分のうち最も重いものが懲戒解雇です。
懲戒解雇となった場合、退職金が不払いとなることが通常です。また、懲戒解雇は従業員の「賞罰」に該当することから就職活動において申告を求められることもあり再就職に不利に働くおそれがあります。このように懲戒解雇は、処分を受けた従業員に対する影響が重大であることから懲戒事由に該当すればいつでも懲戒解雇が有効となるわけではないことに注意が必要です。
懲戒解雇と似たものとして、諭旨解雇(ゆしかいこ)があります。懲戒解雇は上記のように従業員に重大な影響を及ぼします。このため、就業規則上の懲戒解雇事由に該当する場合であっても会社側の恩情により従業員による自主退職の形式をとることが比較的よくあります。このような扱いを諭旨解雇といいます。なお、諭旨解雇については法的には普通解雇として会社から一方的に行われる解雇として扱われることもありますが、比較的多いのは従業員自身の自己都合退職として処理する方法です。
従業員側が懲戒事由に該当することを争わず反省の意を示しているような場合には会社と従業員の話合いにより諭旨解雇とし、自主退職を促したにもかかわらず従業員が従わない場合にはじめて懲戒解雇とする運用の会社が多いといえます。
普通解雇とは、整理解雇や懲戒解雇以外の解雇をいい、会社と従業員との間の信頼関係が破綻したことを理由とする解雇がこれにあたります。普通解雇の対象となる例としては、病気やけがによる休職が長期間継続していて復帰の見込みがない場合や職務遂行能力が著しく欠如している場合などです。
普通解雇については、あくまでも会社側が一方的に行うことであるため解雇の有効性について争いになりやすいといえます。このため、会社側が一方的に普通解雇をすることはそれほど多くはありません。なお、実際には病気やけがなどによって会社の業務に従事できない場合には就業規則に定めたルールに従って退職となります。この意味でも、就業規則は早めに整備しておくことが望ましいといえます。
就業規則に関しては、以下の記事でも詳しく説明しています。
労働契約法において、会社が従業員を解雇するためには正当な事由が必要とされています。したがって、解雇の種類にかかわらず会社の都合で自由に解雇ができることはありません。そして、解雇のうち整理解雇については、過去の裁判例の中で以下の4要件が満たされて初めて、解雇をする正当な事由があると認められると考えられてきました。
①人員削減の必要性があること
②解雇を回避するための努力が尽くされていること
③解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること
④事前に会社が解雇される従業員へ説明・協議を尽くしていること
特に重要なのは、①と②の要件です。
①の要件については、人員削減が不況や業績悪化など会社経営上の十分な必要性に基づいていることが必要です。
②の要件については、解雇を避けるために全従業員の賃金減額や、配置転換、希望退職の募集、役員報酬の返上、新規採用の停止などの措置を行っているかなどによって判断されます。基本的には業績悪化が理由であったとしても解雇は最後の手段であるというのが日本の労働法制における考え方です。
新型コロナウイルス感染症の蔓延を原因とする業績悪化は、現時点(2020年4月時点)ではまだ一時的なものと考えられています。このため、人員削減の必要性があるとはいいにくく、また数か月程度であれば補助金や現預金の取り崩しにより雇用を維持できることが多いと考えられます。このため、①②の要件は満たされず整理解雇が有効とは判断されない場合が多いでしょう。
ただし、今後新型コロナウイルスによる外出自粛が長期化し、多くの会社が倒産するなど景気後退が決定的なものとなった場合には、整理解雇が有効となる可能性が出てくるものと思われます。
整理解雇の4要件を満たさないとして、解雇が無効となった場合に会社はただ従業員を復職させれば済むというわけではなく金銭の支払いを余儀なくされることが通常です。そもそも、解雇が無効と判断された場合の解決としては従業員を職場に復帰させる方法と、ある程度の金銭を支払って改めて退職手続をとる方法の2つがあります。
従業員を職場に復帰させる場合には、会社は従業員に対して慰謝料、復帰までの賃金相当額、後述する解雇予告をしていない場合には解雇予告手当を支払うことになります。争いが長期化する場合、復帰までの賃金相当額の負担がかなり大きくなることに注意が必要です。
また、改めて退職手続をとる場合には、会社は従業員に対して慰謝料、逸失利益、解雇予告をしていない場合の解雇予告手当を支払う必要があります。逸失利益とは、解雇されなければ得られたであろう利益をいい、目安としては解雇から再就職までに通常必要とされる期間分の賃金相当額となります。
このように、解雇が無効と判断された場合には解雇時点にさかのぼって従業員が本来得られるべきであった賃金相当額や慰謝料などといった多額の金銭の支払いが求められます。一括でこれだけの金銭を支払うことは会社にとって大きな負担となります。したがって、従業員を解雇する場合には後から争いとなることのないよう慎重に検討することが重要なのです。
契約社員など期限の定めのある雇用契約を締結している従業員については、契約期間満了であるか契約期間途中であるかにより法的な扱いに違いがあります。
契約期間満了の場合とは契約期間の満了後に会社が契約更新を拒絶することであり、雇止めともいわれます。会社としては契約期間が満了したのであれば、その後更新しなくても問題ないと考えがちですが、法律上は必ずしもそうではありません。具体的には、以下の場合には、正当な理由がない限り雇止めができないこととされています。
・過去に何度か契約更新されていて雇止めが正社員の解雇と同視できるような場合
・従業員が契約の更新を期待する合理性がある場合
したがって、例えば、会社が何度も契約更新をし、従業員に対して将来的な正社員登用を匂わせていた場合や、契約更新を前提とした会社の言動などがあった場合には、契約期間満了時点での雇止めが無効となるおそれがあります。反対に、このような事情がないのであれば正社員の整理解雇よりも雇止めは有効となりやすいといえるでしょう。
これに対し、契約期間途中の解雇についてはより厳しいルールがあります。期間の定めのある雇用契約の場合、その期間中は雇用を保証するという趣旨を含むものと考えられているため原則として解雇が許容されていないのです。したがって、契約期間途中での解雇は正社員の整理解雇の要件よりも厳しく有効とされる余地はほとんどないと考えておく必要があります。
整理解雇であるかを問わず、会社が従業員に対して一方的に解雇をする場合、従業員に対して30日以上前に告知するか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。契約社員など非正規社員の雇止めにおいても、3回以上契約更新されている場合や1年を超えて継続勤務している人については、契約更新をしないのであれば30日前までの予告が必要です。
なお、会社としては解雇予告手当を支払ったからといって解雇が有効になるわけではない点に注意が必要です。
今回は、会社の業績悪化を理由として従業員を解雇するときの注意点について説明しました。日本の労働法制においては会社が一方的に従業員を解雇することはよほどの理由がない限り許されていないことがわかります。したがって、従業員を雇用する際には一度雇用したら簡単に辞めてもらえないことを前提として慎重に検討する必要があります。
このように、会社設立後も知っておくべき法律のルールがたくさんあり、知らなかったがために無用なトラブルに巻き込まれることがあります。そこで、会社設立をする場合には、何かあったらすぐに相談できる税理士や社労士、弁護士などの専門家を探しておくことをおすすめします。