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副業としての買物代行の体験談を、以下の記事で紹介しています。
買物代行とは、文字通り買物に行けない利用者の代わりに買物代行業者が希望の商品を買ってくるサービスです。具体的な業務としては以下のような流れです。
・代行業者が利用者から希望のスーパーや商品、配達時間などの依頼内容をヒアリング
・代行業者が依頼に応じて買い物
・代行業者が利用者の自宅などに品物を配達
買物代行と似たサービスとして、大手スーパーなどのWEBサイト等を通じて注文するとスーパーの従業員が商品を配達してくれるサービスもあります。ただ、スーパーの宅配の場合には対応しているスーパーが限られていて近隣に宅配してくれるスーパーがないこともあります。また、商品ごとにいくつかのスーパーを使い分けている利用者にとっては不便ということもあります。買物代行であれば、利用者が好きなスーパーの中から選ぶことができるため使い勝手の良いサービスということができます。
最初に買物代行業者の法的な位置づけについては整理をしておく必要があります。なぜなら、どのように位置づけるかによって何かトラブルが発生した場合の責任の所在が変わってくるためです。買物代行業者の法的な位置づけとしては、理論上は以下のような種類があり得ます。
①代行業者がスーパーから品物を仕入れ、それを利用者に転売する
②代行業者が利用者の代理として、スーパーから買物をする
①は、後でも説明しますが、買物代行業者が販売者となるため品物によっては販売の許認可が必要となることがあります。また、買物した品物が腐っていたなどの問題があった場合には、配達が原因でなくても利用者との関係では代行業者が責任を負うことになります。買物代行の場合、ここまでの重い責任を負担することは通常想定していないはずですので①の構成が選択されることはほとんど無いでしょう。
②の利用者の代理と考える場合、買物代行業者は利用者による注文の範囲内で利用者に代わって買物をするという位置づけになります。利用者の注文が、例えば「5000円以内で夕食の材料一式を見繕ってほしい」など選択に幅がある場合でも、その範囲内で買物代行業者が品物を選択することができます。多くの買物代行業者は、②に該当することになります。
買物代行業者は自身の選択する法的な位置づけについて利用規約等に明確に定めておくことが必要です。また、後で説明するようにマッチングサイトに登録して買物代行を行う場合には、当該マッチングサイトの定める規約等を確認しておくことが大切です。
買物代行業への参入形態としては、以下のような種類があります。
・個人でマッチングサービスに登録する
・事業として独自に買物代行業を立ち上げる
買物代行を個人で始めるのであれば利用者と代行業者のマッチングサービスを提供しているサイトに登録する方法がもっとも手軽でしょう。このようなマッチングサイトに登録した場合、自分でコストをかけて宣伝広告を行う必要がないため、空いた時間に少しだけ副業をしたいという方には合っているといえます。
ただし、マッチングサイトに手数料を支払う必要があるため実働時間のわりにあまりお金にならないということもあり得ます。また、マッチングサイト経由で買物代行業を行う場合には原則として利用者との直接契約になります。したがって、商品の状態や配達方法などについて利用者からクレームが発生した場合には、自分で利用者と交渉して解決しなければならない可能性がありますので、登録予定のマッチングサイトの規約などを事前に確認しておくことをおすすめします。
また、代行業者が商品の代金を立て替える形式である場合には、利用者からのクレームにより商品を受け取ってもらえなかったりすると報酬を得られないだけでなく、商品代金も代行業者が負担せざるを得なくなるリスクもあります。このような利用者とのトラブルとして想定されるものについては後で詳しく説明します。
買物代行業に本格的に参入する場合には、事業として独自に買物代行業を立ち上げることになるでしょう。最近ではタクシー会社や配送会社など元々車両や配達のできる従業員を擁している会社が買物代行業に進出する例もみられます。また、利用者と実際に代行業をする人を結びつけるマッチングサービスのみを提供する事業を行うことも一つの参入方法といえるでしょう。
買物代行業そのものについての法規制は現時点で存在しませんので、買物代行を始めるにあたり必ず取得すべき許認可はありません。ただし、具体的な業務遂行の方法によって個々に許認可が必要か検討すべきものがあります。
なお、これらの許認可を取得せずに済むようにしたい場合には、マッチングサービスのみを提供する形態で買物代行業に参入し、必要な許認可は登録している人自身の責任で行ってもらうようにすることも一つの方法です。
酒を販売する場合には税務署から免許を取得する必要があります。また、たばこについても財務大臣の許可が必要です。前述した買物代行業者の法的な位置づけとして、代行業者が品物を仕入れて利用者に転売するという形式である場合には、「販売」にあたる可能性があります。そうではなく、買物代行業者が利用者の代理として買物をして配達するだけであれば酒やたばこを「販売」するものとはいえず、これらの販売を行う際の許可等は不要と考えられます。
医薬品や食品についても、一定の営業に関して許認可が必要となることがありますが、同様に利用者の指示に従い買物をして配達をするだけであれば許認可が必要となることは通常ありません。
配達方法に関しては運送業許可の要否が問題となります。運用業許可等が必要な事業としては、以下の3種類があります。
・一般貨物自動車運送事業
・特定貨物自動車運送事業
・貨物軽自動車運送事業
このうち、一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業はトラックを利用した運送に限られます。通常の買物代行であればトラックを利用することはないでしょうから、この2つの運送事業には該当しません。
貨物軽自動車運送事業は軽自動車又は排気量125cc以上の自動二輪車を利用した運送をするものです。したがって、買物代行業にこれらの車両を利用する場合には運輸支局に届出をする必要があります。また、届出後にナンバープレートの交換も行う必要があり一定の費用が発生します。
届出をしない場合には、排気量125cc未満の自動二輪車か自転車しか配達に利用できない点に注意が必要です。
商品が傷んでいたなど配達した品物に問題があった場合には、前述した買物代行業者の法的な位置づけによって責任の所在が変わってきます。買物代行業者が品物を仕入れ、それを利用者に転売する場合には、買物代行業者が責任を負うことになり、代替品を提供するか返金する等の対応が必要となります。
一方、買物代行業者が、利用者の代理としてスーパーから買物をするという位置づけである場合には、品物の問題が外部から明らかであるかにより結論が変わります。例えば、品物が明らかに腐っている場合など外部から問題が明らかである場合には買物代行業者がその品物を選択したことに落ち度があるので、利用者との関係では買物代行業者が責任を負うことになります。
ただ実際にはこのようなことはあまりなく、多くの場合には果物を切ってみたら内部に虫食いがあったなど外部から明らかではない傷みが問題となることが多いといえます。この場合、利用者が直接スーパーにクレームを入れることが本来ではありますが、買物代行業者がサービスとして利用者に代わって代替品を再度調達してくることもあり得るところです。
このようなサービスを行うかは利用者からもらう手数料との見合いによる経済合理性によって判断すべきことですが、いずれにしても問題が生じた場合にどのように対応するかをあらかじめ決めておき利用規約等に記載しておくことが大切です。
なお、配送途中の事故や扱い方が原因で品物が傷んでしまった場合には、外部から明らかであるか否かにかかわらず買物代行業者が責任を負います。この場合、買物代行業者は利用者に対して代替品を提供するか返金するかの対応をすることになります。
ただ、実際問題として品物の傷みなどはスーパーで販売されていたときからあったものか、配送中に付いたものかの識別が困難です。このため、買物代行を行う場合には品物の状態をよく確認した上で買物をすることが重要です。
また、利用者の保存方法が悪かったなど利用者側の責任によるものを排除するために、クレーム受付期限の制限などを利用規約等で定めておくことも一つの方法です。
注文と違う商品が届いたというクレームを受けた場合には、注文内容と照合する必要があります。注文内容が例えば「〇〇社のマヨネーズ」など具体的なものであった場合には、異なる会社のマヨネーズを届ければ当然契約内容に従った履行とはいえません。異なる会社のマヨネーズでも構わないと利用者が受け入れてくれれば良いのですが、そうではなく交換や返金を求められた場合には買物代行業者としては応じざるを得ません。
依頼された品物が欠品であったという場合でも、本来であれば事前に利用者に対して欠品時に代替品を購入するか確認しておくべきであり、このような確認が済んでいないのに勝手に異なるメーカーのものを買ってくることはすべきではありません。
他方、注文内容が単に「マヨネーズ」というだけであれば、利用者から「〇〇社のものがよかったから変えてほしい」などと後から言われたとしても基本的に応じる必要はなく、商品代金も請求することができます。ただし、無用なトラブルを避ける意味で想定されるトラブルとその対応方針については利用規約に定める等の方法により利用者に事前に理解しておいてもらうことが重要です。
今回は、最近話題の買物代行業を始める際の法的な注意点について解説しました。このように新しい事業に参入する場合には、行政に対する許認可を最初に検討する必要があります。許認可の取得が困難であればそもそも事業として成り立たないためです。許認可についての検討が終わり実際に事業化するとなったら、次に実際の業務において起こりそうなトラブルを想定して対応方法を検討し、場合によっては利用規約等に定めておくことになります。最初の段階で十分に検討しておかないと後から大きなトラブルに発展することもありますので、弁護士や行政書士など専門家に相談しておくことをおすすめします。