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士業という言葉自体は、法律上のものではありません。一般的に「〇〇士」というように末尾に「士」が付いている専門職を士業と呼びます。スタートアップが利用することの多い士業としては、税理士、社会保険労務士、弁護士、司法書士、行政書士などがあります。このほか、特許や商標に関しては弁理士に相談する機会もあるでしょう。
士業は、有資格者でないとできない独占業務が法律で定められています。したがって、それぞれの士業の独占業務が何かを理解しておくことが重要です。
税理士の主な業務は、以下のとおりです。
・税務調査等における代理
・税務書類の作成
・税務相談
このうち、税務代理とは税理士が税務調査に立ち会って会社の代わりに対応することや税務調査の結果に不服がある場合に税務署に対して不服申立てを行う業務です。税務調査への対応は会社にとって大きな負担となることが多く、また対応を誤ると脱税等の疑いをかけられるリスクもあります。このため、税務調査に税理士が立ち会ってくれることは会社にとって大きな安心材料となります。
また、税務書類の作成とは税務署に対する税務申告書の作成が主な業務です。税理士によっては税務申告の前提となる会計帳簿の記帳代行を引き受けてくれることもあります。スタートアップで社内に経理のできる人材がいない場合には、記帳代行もあわせて依頼することで会社の業務負担を軽減することができます。
会社の経理業務や税務申告は個人事業主と比較して複雑です。このため、会社を設立したらすぐに顧問税理士を探すケースが多いと思われます。税理士によっては会社設立手続もあわせて行ってくれることもあります。会社設立当初は、本業で手いっぱいになりやすいため記帳代行を含めて税理士に依頼するメリットは大きいといえます。また、税理士にもよりますが、創業融資などを受ける際に顧問税理士のサポートを受けられることがあります。
社会保険労務士の主な業務は、次のとおりです。
・労働社会保険手続業務
・労務管理に関する相談
労働社会保険手続業務には、社会保険に関する届出等の手続、雇用関係の助成金申請、賃金台帳等の作成を含みます。特に社会保険関連の手続は煩雑であるため、社長がこの手続をするということは現実的ではありません。このため、従業員を雇用する場合には社会保険労務士に依頼している会社が多いのです。
また、従業員の人数が10人以上の場合は就業規則を作成する必要があるところ、これも社会保険労務士に依頼することができます。さらに、従業員に残業をさせる可能性がある場合には、36協定と呼ばれる労使協定の作成が必要となります。このような協定の作成もサポートしてもらうことができます。
会社を設立してすぐに従業員を雇用する場合には、社会保険労務士に依頼することがあります。従業員の社会保険関連の手続は煩雑なものが多いため、人事担当の従業員が社内に揃っていないスタートアップの場合にはこれらの手続を社会保険労務士に依頼した方がよいでしょう。
弁護士の主な業務は、以下のとおりです。
・法律相談
・訴訟等の代理
弁護士の扱う法律相談の幅は広いです。トラブルの解決など典型的な法律相談だけでなく、起こり得るリスクを回避するための相談にも対応しています。
実際に企業が弁護士に依頼する場面としては、リスク回避を目的として契約書のリーガルチェックを依頼することや、新規事業で必要となる許認可や想定されるリスクの洗い出しを依頼することが多いでしょう。そのほか、株主総会や取締役会などの運営に関するアドバイスも弁護士から受けることができます。
訴訟等の代理に関しては、例えば取引先との間でトラブルが生じたような場合に弁護士に依頼することがあります。もっとも、会社設立後間もない段階で訴訟を抱えることは少ないのが実情です。
会社設立して間もない企業が弁護士に依頼する場面はそれほど多くはないでしょう。会社設立当初は法的な相談をすべきことが少ないためです。もっとも、会社を設立してすぐにVCから出資を受ける場合や新規事業展開を検討する場合には、弁護士によるリーガルチェックは必須といえます。
これらは、会社のその後の展開に大きく影響することになるため、法的に問題がないか、また会社にとってリスクを負う契約内容になっていないかを十分に確認しておく必要があるためです。
弁護士の業務範囲は極めて広いため弁護士によって得意分野が異なります。したがって、企業が弁護士を探す場合には、自社の属する業界に強みを持つ弁護士に依頼することが良いでしょう。
司法書士の主な業務は、以下のとおりです。
・登記手続等の代理
・筆界特定手続の代理、相談
・家庭裁判所により選任される成年後見人等の業務
・法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟等の代理、相談
司法書士の業務としてまっさきに思い浮かぶのは登記手続等の代理ではないでしょうか。登記手続というと不動産登記がイメージされやすいですが、会社の商業登記に関する手続も司法書士が取り扱っています。
そもそも会社を設立する際には商業登記をする必要があります。商業登記の代理や書類作成業務は司法書士の独占業務です。勘違いされやすいこととして、登記申請書類を司法書士以外が作成して本人が書類を法務局に提出する方式であれば問題ないというものがあります。しかし、司法書士法上、法務局に提出する書類の作成についても司法書士の業務として定められています。したがって、司法書士以外の士業に登記申請書類の作成を依頼することは基本的にはできません。
商業登記に関する手続は、会社設立後も定期的に必要となります。取締役は会社ごとに定められた任期があります。そこで、任期満了の度に重任等の登記をする必要があります。また、代表取締役の自宅住所は登記事項であるため、引越しをした場合には変更登記の申請をする必要があります。
これまで、取締役会議事録等の添付書類をデジタル化することに制度上のハードルがあり商業登記のオンライン申請が進んでいない実態がありました。しかし最近、指定の電子署名サービスを利用すれば、商業登記の添付書類としての取締役会議事録や契約書面等をデジタル化することが可能になるとの報道がありました。これにより、商業登記申請のオンライン申請がこれまでより加速することが期待されます。オンライン申請が可能となれば、地元の司法書士に依頼する必要性は大きく減少しますので、企業としては全国から専門性の高い司法書士に依頼することが可能となります。
会社設立手続において商業登記が必要であるため、会社を設立する時点で司法書士に依頼することがあります。もっとも、登記以外の会社設立手続は行政書士や税理士も対応していることが多く、手続を依頼した行政書士や税理士が提携している司法書士に依頼する形で行われることもよくあります。したがって、会社設立登記のためだけに司法書士に依頼するケースはそれほどないかもしれません。
もっとも、登記自体は会社設立後も継続的に必要となるため、会社を設立したら早い段階で商業登記を扱っている司法書士を探しておく必要があります。取締役の変更など登記事項に変更が生じた場合には変更登記の申請をする必要があるところ、申請期限がタイトな場合が多いためです。また、登記の前提となる取締役会の議事録なども司法書士に事前に確認してもらうことができます。
行政書士の主な業務は、以下のとおりです。
・官公署に提出する書類の作成、代理、相談
官公署に提出する書類の作成というのは、主に許認可に関する申請書や届出書の作成です。金融業や不動産業、飲食業などは会社設立と同時に行政から許認可を取得する必要があります。このような許認可の申請を行政書士に依頼することができます。
このほか、定款など権利義務に関する書類の作成も行政書士が行うことができる業務に含まれています。ただし、相手方との間でトラブルになっているなど紛争性のある法律相談に関しては弁護士の独占業務となるため、行政書士が対応することはできません。また、前述のとおり登記申請書類の作成は司法書士の独占業務であるため、行政書士が行うことはできないなど、行政書士の扱うことのできる業務は他の士業の独占業務との関係で制約を受けることが多い点に注意が必要です。
会社が行政書士に依頼する場面としては、業種ごとに必要となる行政機関に対する許認可の取得です。許認可に関してはある程度専門家が進んでおり、行政書士ごとに得意分野があります。したがって、自社の業界に詳しい行政書士を探すことをおすすめします。
会社を設立すると、法律上必要な手続が増えます。それぞれの手続を社内で行うこともできますが、よほど時間に余裕がある場合でない限り各手続に対応した士業に依頼して本業に注力した方が会社にとって良い結果となります。信頼できる士業と早い段階で繋がっておくことが会社経営にとっては重要なことです。