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保証など法律で定められた一部の契約をのぞいて、契約は口頭でも成立します。ただ、実際には重要な契約は契約書という書面を作成します。これは、契約に関して裁判所で争われた場合に、書面がないと契約が成立したことや契約内容を証明することが難しいためです。
また、契約書には当事者が押印しますが、この押印にも法的な意味があります。契約当事者本人の印鑑が押されていれば、本人の意思により契約が成立したと推定されるためです。これは、「印鑑を権限のない第三者が勝手に持ち出して押印した」というような主張を封じ込めるやすくなることを意味します。結果として、押印があると相手から契約の有効性を争われるリスクが低減できるということになります。
以上のように、契約書を作成しておくとその後に契約の相手方と契約内容などをめぐってトラブルになることを避けられるメリットがあります。このメリットを享受するためには、契約書の内容を十分に検討することが重要となるのです。
スタートアップの多くは、オフィスを賃貸することになります。したがって、オフィスの賃貸借契約書はスタートアップにとって重要な契約のひとつといえます。
賃貸借契約書は、オフィスのオーナーと入居する企業との間で締結されます。また、入居する企業の代表者個人による連帯保証が求められることもあります。賃貸借契約書のポイントは以下の2点です。
賃貸借契約には定期借家契約と普通借家契約の2種類があります。定期借家契約とは、賃貸借契約に定められた契約期間のみ入居できる契約です。契約期間が満了した後、さらに使用を継続したい場合には改めてオーナーと合意し再契約をする必要があります。
これに対して普通借家契約とは従来型の賃貸借契約であり、契約期間の定めは一応あるものの原則として契約が更新されるものをいいます。オーナー側は自由に更新拒絶ができないので、入居者としては普通借家契約の方が長期的に安心して利用できます。他方、オーナー側としては定期借家契約であれば、入居中にトラブルが発生した場合やリニューアル工事などオーナー側の事情で退去してほしい場合などに契約期間を待てば容易に退去を求められるメリットがあります。このため、最近、都市部のオフィスでは定期借家契約が増えています。
注意すべきこととして定期借家契約の場合、契約期間中の中途解約が制限されていることがあります。また、中途解約をする場合に相当額の違約金を支払うよう定める条項もしばしばみられます。スタートアップの場合、事業拡大により本社移転する可能性がありますので、できるだけ中途解約の制限がないか、制限があるとしても契約期間が長すぎないかをよく確認した方が良いでしょう。
賃貸借契約に連帯保証人が必要となる場合には、連帯保証人の記名押印が必要となります。なお、2020年4月に施行された改正民法では、連帯保証人による保証の範囲を明確に契約書に定めることが義務付けられました。例えば、「極度額は〇円とする」などと明記する必要があります。これにより、連帯保証人は無限の債務を負うリスクがなくなりました。
改正民法との関係では連帯保証人に対する情報提供義務が定められたことにも注意が必要です。具体的には、賃貸借契約の主債務者である入居者は連帯保証人に対して、入居者の有する財産や収支の状況等の情報を随時提供することが義務付けられたのです。連帯保証人が会社の代表者や役員など関係者である場合にはあまり問題は生じませんが、親族や他の企業など会社外の第三者である場合には会社の財務状況などが外部に知られることになりますので、誰を連帯保証人にするかはよく検討すべきといえます。
賃貸借契約を締結する際には、まず候補となるオフィスで内覧し設備等を確認します。その後、契約を希望する場合にはオーナーによる入居審査を経て契約締結となります。また、賃貸借契約については、宅建業法により契約前の重要事項説明が義務付けられています。
労働基準法には、従業員を雇用する際に会社が従業員に対して労働条件を通知しなければならない旨が定められています。必ず通知すべき事項は以下のとおりです。
・労働契約の期間
・業務の場所・内容
・業務の開始時刻・終了時刻・残業の有無
・休憩時間
・休日・休暇
雇用契約書を作成する場合には、雇用契約書をもって労働条件通知書に代えることができますが、この場合雇用契約書に上記の事項を必ず記載する必要があります。
なお、従業員に残業をさせる可能性がある場合には、雇用契約書に定めるだけでなくいわゆる36協定の作成が必要となることに注意しましょう。
従業員を雇用する際には、人材募集、内定・労働条件の提示又は雇用契約書の作成、入社という流れが一般的です。労働条件を提示したら後からの変更が難しいため、労働条件は社会保険労務士などにも相談の上、人材募集の前に決めておく必要があります。また、従業員の入社前に社会保険加入等の準備もしておかなければなりません。入社前後は必要な手続が多くありますので漏れの無いように気を付ける必要があります。
会社設立当初は、従業員を雇用する余裕がないなどの事情により、会社の業務を社外に委託することがあります。例えば、電話代行、記帳代行なども業務委託です。また、士業など専門家との契約も業務委託となります。
業務委託契約書の内容は委託する業務によってさまざまです。必ず確認すべき点は、業務内容と対価の支払いに関する条項です。
業務内容に関しては、できるだけ具体的に定めることが重要です。会社としては委託したつもりであったが、外注先としてそのような認識でなかったりすると、せっかく業務委託した意味が半減してしまいます。不明な点は、契約前に外注先によく確認して契約書に具体的に盛り込むことに加え、相互に確認した内容をメールなどの形で残しておくことも有効です。
また、業務委託契約に限ったことではありませんが、業務の対価となる費用を明確に定めておくことが重要です。特にどのような業務に対してどのような費用が発生するのか、追加費用はどのような条件を満たしたときに発生するのか等を確認しておく必要があります。業務の対価としての費用のほかに、事務処理にかかる実費を誰が負担するのかも盲点となりやすいので確認しておくと良いでしょう。
業務委託契約はシステム開発のような単発の契約と、顧問契約や保守契約のような継続的な契約に分けることができます。継続的契約の場合、基本契約を締結した上で個別に委託すべき業務が発生した時点で、都度個別契約を締結する流れが一般的です。ここでいう個別契約は、契約書を都度作成するというよりは注文書・請書のやりとりやメールのみで完結することが比較的多いでしょう。
契約を締結する場合や自社の契約書ひな形を作成する場合、スタートアップだと社内に法務人材がいないことが多いため社長やその他の役員が担当している例が結構あります。簡単な契約であればそれでも良いのですが、会社の事業のコアとなる契約書を作成する場合には、できるだけ士業など専門家の目を通すことをおすすめします。
特に取引相手から提示されたひな形の場合には、法的に誤りではないものの将来的に会社にリスクをもたらす条項があり得るためです。企業法務の経験がある専門家であれば、リスクを回避するためにはどのような条項に代える必要があるのかまで提案することができます。
また、万が一契約に関連して会社に損害を生じる事態となった場合には株主等から社長を含む役員に対して責任追及がされることがあります。このとき、契約に際して外部の専門家に検討を依頼し、その検討結果に従って経営判断をしたのであれば、その経営判断は合理的なものであったとして免責されやすくなります。したがって、外部の専門家の目を通すことは役員の身を守る意味もあります。