前項目でみたように、会社の貸倒損失として認められるケースのひとつに「形式上の貸倒」があります。
このケースに該当するものとして、以下の2通りがあります。
1.債務者との取引停止後1年以上経過したこと(担保物のない場合に限定)。
2.売掛債権の総額が取り立て費用にみたない場合において督促しても弁済がないこと。取引停止後1年以上経過していることが要件になっていますが、の内容としては、最後の売上計上日であったり、最後の債権回収日であったりします。最後の取引から1年以上の経過が必要条件ではありますが、それだけを条件として貸倒損失が認められるわけではありません。
1年間の債権回収の努力をしているにもかかわらず、債務者の返済能力が不足しているために、結果として1年以上、回収が滞っていることがポイントになります。
形式として1年以上の経過が条件ですので、実務上1年経過時ではなく2年以上、3年以上経過後に初めて貸倒損失を計上することもあります。どの時点で貸倒損失を計上するかは会社の判断になりますが、判断にいたるプロセスを書面として残すことで、時点の妥当性を説明できるようにしておく必要があります。
また、担保物を有している場合は、担保物の処分により回収できる部分がありますので、担保物の処分が完了するまでの間は、1年の期間からは除かれます。担保物を処分しても明らかに債権の一部しか回収できないような場合は、前項の「事実上の貸倒」としてどうしても回収できない場合に限り貸倒損失を計上することになります。
連帯保証人がついているような場合についても、連帯保証人に対する保証債務の履行が行われた後でなければ、貸倒損失は認められません。次に債権総額が取立費用に満たないような場合も貸倒損失が認められます。たとえば、債権額が1万円で何度督促しても回収できないようなケースで、回収するために旅費をかけたり弁護士を使ったりすると、採算に合わないような場合です。1万円の回収のために10万円の経費がかかるのであれば、なにもしない方が経済合理性にあっています。そのようなケースについては、形式的に貸倒損失を認めようというものです。なお、債務者1社だけではなく同じ地域で回収の滞っている債務者が複数いるような場合、複数の債務者に対してかかる取立費用との比較で経済合理性を判断することになります。
形式上の貸倒の会計処理は、債権額から備忘価額を控除した金額を貸倒損失として計上することになります。備忘価額は通常1円程度ですが、法律上はまだ債権として存在するということで、備忘価額を残すことになります。
最後になりましたが、この形式上の貸倒は、債務者との間で継続的に行われる取引から生じる債権、いわゆる売掛金について認められているものです。したがって、継続的取引ではない取引から生じた、貸付金や資産の売却にともなう未収入金などは、形式上の貸倒の対象とはなりません。