保険契約を見直そう~掛け方で大きく変わる税金
保険金の税金は契約方法で変わる
生命保険に加入する際に、あまり重要視されていないことですが、意外に大切なのが「保険契約者」「被保険者」「死亡保険金受取人」を誰にするかということです。この組み合わせによって、死亡保険金を受け取る際の税金の種類が異なり、結果として税額も大きく違ってくるのです。では、実際に税額がどう違ってくるのか、具体的に見ていくことにしましょう。
死亡保険金の税金
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(1) |
(2) |
(3) |
(4) |
契約者 |
夫 |
夫 |
妻 |
妻 |
被保険者 |
夫 |
夫 |
夫 |
夫 |
受取人 |
妻
(相続人) |
相続人
以外 |
妻 |
子 |
課税 |
相続税
(生保非課税あり) |
相続税
(生保非課税なし) |
所得税・住民税
(一時所得) |
贈与税 |
「契約者」と「被保険者」が同一人であれば相続税の対象になる
図表中の(1)(2)を見るとわかるように、相続税の対象になる契約は、契約者と被保険者が同一人の場合です。相続税には基礎控除という非課税枠があり、
5000万円+1000万円×相続人の数
の金額を控除できることになっていますが、基礎控除を超える金額については、10~50%(遺産の大小や相続人の数による)の税率がかかります。なお、死亡保険金受取人が契約者の相続人の場合は、基礎控除とは別枠で、500万円×相続人の数の金額を保険金から控除できます。(死亡保険金の非課税)(図表中の(1))。つまり、保険金以外の財産も含めて、非課税枠以内なら相続税はかからないことになります。ここをうまく活用すれば、節税になるわけです。
「所得税・住民税の対象になる契約」は契約者と受取人が同一人の場合
また、所得税・住民税( 一時所得)の対象になる契約は、契約者と死亡保険金受取人が同一人の場合です(図表中の(3))。つまり、(死亡保険金-累計払込保険料-特別控除50万円)× 1/2が一時所得の課税対象になります。その後、他の所得と合算(総合課税) し、所得税・住民税合計で15~50%(所得金額による)の税率がかかってきますが、1/2が謀税対象になるので、最高でも25%の負担ですむわけです。
「贈与税の対象になる契約」は契約者≠被保険者≠受取人
贈与税の対象になる契約は、契約者と被保険者と死亡保険金受取人のすべてが異なる人の場合です(図表中の(4))。 贈与税は、受取保険金額から基礎控除の110万円を引いた金額に10~50%(贈与金額による)の税率がかかります。相続税や所得税と比べて税負担が非常に大きいため、注意が必要です。
うまく保険を活用すれば2220万円の贈与税が不要に
では、死亡保険金5000万円、累計払込保険料950万円の例で計算しましょう。その場合、
・相続税→0円(他の財産はないと仮定)
・所得税・住民税→約701万円(他の所得なく基礎控除のみと仮定)
・贈与税→2220万円!(他の贈与はないと仮定) いかがですか。このインパクト!特に保険が嫌いなご主人の場合、このように贈与税の対象になってしまうケースが多いようです。すなわち主人は保険が嫌いなので私(妻) が夫に保険をかけるしかない→せめて受取人は子どもにしてあげよう→贈与パターンの完成となります。
受取人の名義変更で大丈夫~損な既契約は変更できる
では、わが家の保険証券を確認したところ、贈与パターンだった場合、どのように対応すればいいのでしょう。解約して新たに保険に入り直さなければならないのか・・・。そんな不安にかられかねませんが、心配することはありません。契約者と受取人は加入後であっても変更することができるためです。たとえば、(4) の受取人を子から妻にかえておけば、万一のときには、所得税・住民税の対象になります。
意外に使われていない死亡保険金非課税枠の活用
「死亡保険金非課税枠」は「500万円×相続人の数」で計算する第3章❶で確認しましたが、契約者と被保険者が同一人の場合、死亡保険金は相続税の対象になります。
そして受取人が契約者(被保険者)の相続人である場合には、死亡保険金の非課税枠が活用できます。
死亡保険金非課税枠の計算方法は「500万円×相続人の数」となるため、相続人が奥さんと子ども3人の場合は、「500万円×4人=2000万円」といった数字が割り出されます。
死亡保険金非課税枠
500万円×法定相続人の数
(注1)被相続人に複数の普通養子がいる場合
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親族関係 |
法定相続人の数 |
非課税の適用 |
養
子 |
被相続人に実子がいる場合 |
養子のうち1人までを含める |
養子全員に適用あり |
被相続人に実子がいない場合 |
養子のうち2人までを含める |
※相続税の負担を不当に減少すると認められる養子は除かれます。
(注2)相続を放棄した相続人および相続権を失った相続人がいる場合
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法定相続人の数 |
非課税の適用 |
放棄者 |
含める |
適用なし |
失権者 |
含めない |
適用なし |
※この場合の放棄とは、家庭裁判所に所定の手続きをとって相続を放棄した者のこと。
相続人が妻と子ども3人の場合、500万円×4人=2,000万円の死亡保険金非課税枠がある。ただし、活用できるのは2,000万円以上の保険に入っていた場合だけ。非課税枠が2,000万円あっても、1,000万円しか保険に入っていなければ活用できるのは半分の1,000万円。有効な活用をしよう。
「法定相続人」になれる養子の数は決まっている
被相続人に養子が複数いる場合には注意が必要で、法定相続人に含まれる普通養子の数には、次のような制限があります。
被相続人に実子がいる場合には、養子が何人いても1人までを含める。被相続人に実子がいない場合には、養子が何人いても2人までを含めます。
さらに相続を放棄した相続人がいる場合でも法定相続人の数に含め、相続権を失った人がいる場合には、法定相続人の数に含めません。
「非課税枠の活用」は実際の保険金額が上限となる
前項の「Lの悲劇」のようなケースもありますので、非課税枠を十分活用できるように保障内容の確認は、事前に行なっておく必要があります。
実際にシミュレーションをしてみましょう。
・相続人……奥さん、長男A、次男B(相続権を失権)、養子C、養子D、長女E(相続放棄)
・受け取った保険金……奥さん2000万円、長男A1000万円、次男B(相続権を失権)2000万円、養子C1000万円、養子D1000万円、長女E(相続放棄)2000万円。
・法定相続人の数……奥さん、長男A、養子1人まで、長女E=4人
・死亡保険金非課税枠……500万円×4人=2000万円
・非課税の適用者……奥さん、長男A、養子C、養子D
・非課税の適用金額…非課税枠2000万円×各人の取得金額(奥さん、長男A、養子C、養子D)÷5000万円(奥さん2000万円、長男A1000万円、養子C1000万円、養子D1000万円)
計算例(奥さん)……非課税枠2000万円×奥さんの取得金額2000万円÷5000万円=800万円が奥さんの非課税金額、奥さんの取得金額2000万円−奥さんの非課税金額800万円=奥さんの課税対象額1200万円となります。
余命6カ月で保険金が受け取れる「リビングニーズ特約」の使い方
死亡保険金が前払いで受け取れる画期的な保険――リビングニーズ特約保険
リビングニーズ特約とは、被保険者の余命が一定期間内(通常6カ月)と判断された場合に、死亡保険金のうち一定額(通常3000万円)を生前に前払いしてもらえる制度で、特約保険料は無料です。
昔、泉谷しげるさんがお墓をバックに宣伝していたあの商品ですね。
本来、死亡保険金は亡くなってから支払われるので、自分自身では使えません。ところが、この特約を利用すればそれが可能に。生前に保険金を受け取り、治療費や大切な人との思い出作り、やってみたいことなど自分自身の好きなように使えるわけです。
・死亡保険金 5,000万円
・法定相続人 6人
・非課税枠 500万円×6人=3,000万円
⇓
リビングニーズ特約を3,000万円使うと残りの保険金は2,000万円
2,000万円<3,000万円
死亡保険金の非課税は2,000万円しか使えない。
相続人が妻と子ども3人の場合、500万円×4人=2,000万円の死亡保険金非課税枠がある。ただし、活用できるのは2,000万円以上の保険に入っていた場合だけ。非課税枠が2,000万円あっても、1,000万円しか保険に入っていなければ活用できるのは半分の1,000万円。有効な活用をしよう。
「リビングニーズ保険金」の所得税は非課税
ところで、自分自身でリビングニーズ保険金を受け取った場合の税金の取り扱いですが、保険金の前払いなので受取人に対し一時所得課税が生じるのではないかと心配になってきます。しかし、所得税法では、心身に加えられた損害に起因して支払われる金員を非課税とする規定があり、これに照らしてリビングニーズ保険金は非課税となります。
「特約保険金の請求」は配偶者の代行でもできる
リビングニーズ保険金を、被保険者が保険金支払い請求を出すのではなく、配偶者が「指定代理請求者」として特約保険金を請求することも可能です。誤解しやすいのが、このような場合でも配偶者が保険金受取人となるのではなく、あくまで受取人はご本人にある点に注意してください。
もし、ご主人が被保険者であれば、特約保険金を受け取った後に死亡し、死亡時(相続開始時)にそれが使われずに現金として残っていた場合は、ご本人(被保険者=被相続人)の相続財産として相続税の課税対象となります。
「死亡保険金の非課税枠が使えない場合」もあるので要注意
リビングニーズ特約を使わずに、死亡したときに死亡保険金受取人である奥さんが保険金を受け取った場合には、みなし相続財産として相続税の課税対象になりますが、生命保険金の非課税の取扱い(その被保険者の法定相続人一人につき500万円の非課税枠)が使えます。
しかし、リビングニーズ特約を使って現金が残ってしまうと、金融資産として本来の相続財産に該当しますから、生命保険金の非課税の取扱いはありませんので、結果として相続税が増加してしまう場合もあります。
したがって、相続税がかかる可能性がある方は、リビングニーズ特約の請求は慎重に検討する必要がある、と言えるでしょう。
子どもに準備を――生命保険料贈与の活用
「子どもが受取人の保険」でも父親が支払えば相続財産とみなされる
わが子に保険契約を残したい。そんな思いから保険料の支払能力のない小さい子どもを契約者および受取人とする保険を、父親が保険料を支払って契約し、毎年の保険料も負担しているケースがよく見受けられます。
このような契約の場合、毎年の保険料を子どもに贈与していた証明ができなければ、子どもが契約した保険にはなりません。将来、父親の相続の際に、みなし相続財産として相続税の課税対象になってしまうので注意が必要です。
相続税の税務調査で思わぬ追徴を受けないように、事前の準備をしっかりしておくようにしたいものです。
保険料贈与を有効に活用しよう
相続人が多いケース、特に子どもが多ければ、贈与を積極的に活用すると節税対策になります。もちろん、贈与を活用する場合には基礎控除の110万円にこだわらず、少なくとも最低税率(10%)ぎりぎりの310万円の金額は贈与するようにしましょう。
さらに現金を贈与された相続人は、贈与された資産を単に自分名義で運用するのではなく、贈与された金銭を被保険者を親にした生命保険契約の保険料に充当すれば、贈与をさらに有効に活用できます。
親を被保険者とした生命保険契約では、被保険者の死亡によって子どもに支払われる生命保険金は相続税の対象となりません。所得税・住民税の課税対象となり、なおかつ一時所得扱いとなるため、所得税・住民税合わせて最高でも25%以下の負担ですむことになります。
このように子どもが親に保険を掛ける場合には、将来必ず保険金を受取り、それを納税資金にあてるわけですから、保険の種類としては終身保険が賢い選択です。
被保険者となる親が年をとればとるほど、終身保険の保険料は累進的に高くなってしまいますので、できるだけ早めにこの対策は実行しておくようにします。
相続税の非課税限度額の利用とは異なり、この対策は親が75歳や80歳になってから実行したのでは、保険料に対して支払われる保険金額もそれほど大きくないため、なおさら早めの実行が望まれます。
「金銭贈与契約書」の作成は必須事項
ところで、税務署から保険料贈与があったと判定してもらうためには、「過去の保険料支払い資金は父親から贈与を受けた現金を充てていた」旨の証明を子ども自身がする必要があります。
ポイントとしては、贈与を受けたときに保険料の金銭贈与契約書を作成しておくこと、金額が基礎控除(年間110万円)を超える場合には、贈与税の申告書・納付書を保管しておくことは必須です。
税務署からあとで思わぬ申告漏れを指摘されないように、有効な相続税の納税資金準備ができるように、手続きしておくことを忘れないようにしましょう。