みなし労働時間制とは、あらかじめ設定した所定労働時間分の労働をしたとみなす制度です。
みなし労働時間制は、業務の遂行方法や時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要があり、労働時間を正確に算出するのが困難である場合に役立ちます。
また、育児や介護など、ライフスタイルに合わせて働くことができるのも、この制度のメリットと言われています。
しかし、この制度はうまく機能させないと、長時間労働につながる恐れがあります。
残業代の有無などについても、しっかりと把握しておかないと、労働者とのトラブルにつながる可能性があるので、注意が必要です。
ここでは、みなし労働時間制について、わかりやすく解説していきたいと思います。
目次
みなし労働時間制とは、実際に働いた時間に関わらず、1日の所定労働時間分の労働をしたとみなす制度になります。
この制度の特徴は、実労働時間がみなし労働時間よりも短くなったとしても、支払われる給与額は変わらないということです。
例えば、所定労働時間が8時間の場合、実労働時間が7時間であったとしても、その1時間分の給与は差し引かれることはありません。
業務の遂行方法や時間配分なども労働者の裁量に委ねられているので、ライフスタイルに合わせて自由な働き方ができるのがメリットといえます。
しかし、所定労働時間が8時間の場合、実労働時間が9時間であったとしても、超過した1時間分の残業代は発生しません。
これは、所定労働時間を実労働時間とみなすため、残業という概念がそもそもないからです。
そのため、みなし労働時間よりも実労働時間が長くなる傾向にある職種だと、長時間労働につながる恐れがあります。
また、実労働時間との差が大きくなればなるほど、労働時間に対しての給与に不満が出やすいのも特徴です。
こういった不満が出ないようにするためにも、作業の効率化を図ること、時間配分を調整するなど、長時間労働を回避するような工夫が必要になります。
ここでは、みなし労働時間制について、わかりやすく解説していきたいと思います。
みなし労働時間制には、以下の2種類があります。
事業場外みなし労働時間制とは、社外(事業場外)での業務が中心になる仕事であり、労働時間の算出が難しい場合に、所定労働時間分を働いたとみなす制度になります。
裁量労働制とは、業務の遂行方法や時間配分を労働者の裁量に委ねる必要のある仕事であり、労働時間の算出が難しい場合に、所定労働時間分を働いたとみなす制度になります。
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
どちらの制度においても、実際の労働時間に関わらず、所定労働時間分を働いたとみなす制度となるのが特徴です。
事業場外みなし労働時間制とは、上述しましたが、社外(事業場外)での勤務が中心となる仕事で採用されることが多い制度です。
具体的な職種については、以下の通りです。
これらの職種は、すべて「会社(事業場)の外」での業務が中心となり、労働時間の管理が難しくなるため、事業場外みなし労働時間制が採用される傾向にあります。
しかし、上記のような社外(事業場外)での業務が中心となる職種であっても、以下の条件に該当する場合には、事業場外みなし労働時間制を採用することはできません。
つまり、業務に関する具体的な指示や管理などを受けず、会社(事業場)が労働時間を算出することが難しい場合に適用される制度ということです。
裁量労働制には、以下の2種類があります。
それでは、それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務の遂行方法や時間配分を労働者に委ねる必要があり、具体的な指示を行うことが困難である職種が対象となります。
専門業務型裁量労働制が対象となる職種・業務には、以下のようなものがあります。
職種・業務内容 | |
1 | 新商品・新技術の研究開発または人文科学・自然科学に関する研究 |
2 | 情報処理システムの分析または設計 |
3 | 新聞・出版・放送制作における取材または編集 |
4 | 衣服・室内装飾・工業製品・広告などの新たなデザインの考案 |
5 | 放送番組・映画などの制作におけるプロデューサーまたはディレクター業務 |
6 | 上記のほか、厚生労働大臣の指定する業務 |
① コピーライター ② システムコンサルタント ③ インテリアコーディネーター ④ ゲーム用ソフトウェアの創作 ⑤ 証券アナリスト ⑥ 金融商品の開発 ⑦ 大学の教授、准教授、講師の研究業務 ⑧ 公認会計士 ⑨ 弁護士 ⑩ 建築士 ⑪ 不動産鑑定士 ⑫ 弁理士 ⑬ 税理士 ⑭ 中小企業診断士 |
企画業務型裁量労働制とは、事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、企画、立案、調査、分析を行う職種が対象となります。
専門業務型のように対象業務が限定されているわけではありませんが、主に、会社でも事業運営の中心である本社や管理部門での業務に適用されます。
みなし労働時間制では、原則として、残業代は発生しません。
しかし、以下のような場合には、例外的に残業代が発生します。
それでは、それぞれの場合について、詳しく見ていきましょう。
みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合には、法定労働時間を超えた時間分の割増賃金が発生します。
例えば、みなし労働時間が9時間である場合には、法定労働時間が8時間であるため、法定労働時間を超えた1時間分の割増賃金が発生します。
みなし労働時間制を採用していても、休日労働や深夜労働を行った場合には、割増賃金が発生します。
深夜労働では、夜22時~朝5時までの間に労働をした場合に、2割5分以上の割増賃金が発生します。
休日労働では、法定休日に労働をした場合に、3割5分以上の割増賃金が発生します。
法定外休日(所定休日)に労働をし、週の所定労働時間が40時間を超えた場合にも、2割5分以上の割増賃金が発生します。
また、深夜労働の他に、休日労働または時間外労働の割増賃金も合わせて発生する場合には、それぞれの割増賃金を合計した金額を支給する必要があります。
みなし残業代(固定残業代)とは、実際の残業時間に関わらず、1ヶ月当たりに定められた賃金が固定残業代として支払われる制度のことをいいます。
労働者の月々の残業時間を一定の時間とみなすことから、「みなし残業」と呼ばれています。
つまり、実際の残業時間が一定の時間を超えていたとしても、「みなし残業」分以上の賃金は支払われないということです。
一方、みなし労働時間制で発生する残業代については、条件はありますが、実際に労働をした時間分の割増賃金が支払われるのが特徴です。
そのため、「みなし残業代」とは、みなし労働時間制で発生する残業代とは別物になりますので、注意しましょう。
みなし労働時間が実労働時間よりも短く設定されている場合には、どれだけ残業をしたとしても、残業代は発生しません。
そのため、みなし労働時間制という制度を利用して、労働者に不当な労働をさせようとすることが問題となっています。
みなし労働時間とは、「会社で定めた労働時間」もしくは「業務の遂行に必要とされる時間」をもとに定められています。
みなし労働時間が実労働時間と比べて、極端に短いと判断できる場合には、会社にみなし労働時間を適切な時間に再設定するように交渉しましょう。
みなし労働時間制は、「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」の2種類がありますが、採用できる制度は職種によって異なります。
また、みなし労働時間制には、残業という概念がないため、残業代の負担を減らしたいと考えている会社にとっては魅力的な制度になります。
ただし、みなし労働時間制を採用したからといって、いくらでも働かせ続けられるわけではもちろんありません。
そのため、制度の特徴を正しく理解していないと、長時間労働につながる恐れがあるほか、実際の労働時間と給与が見合っていないという不満を抱く原因にもなります。
労働者とのトラブルを防ぐためにも、制度の内容を正しく理解して、うまく機能させることが重要です。