労災保険とは、労働者が、通勤途中や業務上のケガや疾病によって、働くことが困難になった際に、生活を補償するための制度です。
この制度の対象は、労働者となりますので、原則、自営業者や経営者は加入することができません。
しかし、労災保険には、特別加入制度というものがあり、一定の条件の場合には、加入することができるのです。
労災保険加入制度とは何か、制度の内容やどのような場合に加入できるのかについてみていきたいと思います。
目次
労働基準法において、業務上のケガなどがあった場合には、その指揮や管理を行っている事業主が償いをしなければならないと定義されています。
しかし、この補償は、場合によっては、莫大な金額になる場合もあります。
そこで、この事業主負担を少しでも軽くする目的で誕生したのが労災保険制度です。
そうすると、指揮や監督を行う立場である事業主は、そもそも労災保険の給付を受ける対象にはならないですよね。
そうは言っても、中小企業の事業主は、従業員と同じような現場作業を行うこともあります。
また、日本から海外に派遣された労働者は、現地の労働災害補償制度の適用を受けることになりますが、国によって、補償制度が確立してなかったり、適用範囲や給付内容が十分でない場合があったりします。
このような場合に、労災保険の適用できるように定められているのが、労災保険の特別加入制度です。
それでは、この労災保険の特別加入制度の対象となるのは、どのような場合なのかについて、見ていきたいと思います。
労災の特別加入制度は、加入できる条件により、以下の4種類があります。
それぞれについて見ていきたいと思います。
中小事業主等が労災に特別加入できる場合というのは、以下となります。
事業の種類 | 使用労働者数 |
金融業、保険業、不動産業、小売業 | 常時50人以下 |
卸売業、サービス業 | 常時100人以下 |
その他の業種 | 常時300人以下 |
上記に該当し、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託している場合に、加入することができます。
特別加入の申請手続きは、労働保険事務組合を通じて、「特別加入申請書(中小事業主等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受ける必要があります。
一人親方等が労災に特別加入できる場合については、以下となります。
上記に該当し、一人親方等の団体(特別加入団体)に所属している場合に、加入することができます。
特別加入の申請手続きは、特別加入団体を通じて、「特別加入申請書(一人親方等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受ける必要があります。
特定作業従事者が労災に特別加入できる場合については、以下となります。
上記に該当し、特定作業従事者の団体(特別加入団体)に所属している場合に、加入することができます。
特別加入の申請手続きは、特別加入団体を通じて、「特別加入申請書(一人親方等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受ける必要があります。
海外派遣者が労災に特別加入できる場合は業種ごとに以下の通りです。
事業の種類 | 使用労働者数 |
金融業、保険業、不動産業、小売業 | 常時50人以下 |
卸売業、サービス業 | 常時100人以下 |
その他の業種 | 常時300人以下 |
また、海外派遣者が労災に特別加入できる場合については、以下となります。
上記に該当する場合には、加入することができます。
特別加入の申請手続きは、派遣元の団体又は事業主が、「特別加入申請書(海外派遣者)」を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し、その承認を受ける必要があります。
労働者の労災保険料は、賃金総額に労災保険率を掛けて計算されます。
しかし、事業主の場合は、労災給付事故が発生したときに、いくらの給付金を受け取りたいのかに応じて、保険料が決定される仕組みとなっています。
上記によって求められます。
給付基礎日額 A |
保険料算定基礎額 B=A×365日 |
25,000円 | 9,125,000円 |
24,000円 | 8,760,000円 |
22,000円 | 8,030,000円 |
20,000円 | 7,300,000円 |
18,000円 | 6,570,000円 |
16,000円 | 5,840,000円 |
14,000円 | 5,110,000円 |
12,000円 | 4,380,000円 |
10,000円 | 3,650,000円 |
9,000円 | 3,285,000円 |
8,000円 | 2,920,000円 |
7,000円 | 2,555,000円 |
6,000円 | 2,190,000円 |
5,000円 | 1,825,000円 |
4,000円 | 1,460,000円 |
3,500円 | 1,277,500円 |
あらかじめ決めておいた給付基礎日額に、365日分をかけ、以下の料率を掛けて求めます。
特別加入の種類 | 料率 |
自動車を利用して行う旅客または貨物の運送の事業 | 12/1000 |
建設の事業 | 18/1000 |
漁船による水産動植物の採捕の事業 | 45/1000 |
林業の事業 | 52/1000 |
医薬品の配置販売の事業 | 7/10000 |
再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業 | 14/1000 |
船員法第1条に規定する船員が行う事業 | 48/1000 |
このように、本来は、労災の加入対象ではない、事業主なども、特別加入制度によって、労災に加入することが可能となります。
本来、労災とは、会社などの事業所で働く、労働者のための制度です。
そのため、個人事業主や経営者は、加入することができません。
しかし、個人事業主や経営者であっても、現場で作業を行い、労災の対象となるような、怪我や病気になってしまうこともあります。
そのような場合には、できれば、労働者と同じように、労災保険で補償が行われるのが、望ましいですよね。
そのために、労災の特別加入制度というものがあります。
個人事業主や経営者の場合でも、これまでに見てきた条件に該当する場合には、加入を検討してみてはいかがでしょうか。