会社で長く勤めていると、取締役など役員就任のお声がけをいただくことがあります。
もちろん、昇格であることは、間違いないので、ありがたいことではありますよね。
ただし、係長から、課長、部長へと昇進するのとは違い、取締役など役員になるということは、労働者ではなく、経営者になるということになります。
そのため、ありがたいことである反面、取締役就任を即答しかねるというのも事実ですよね(^^;
労働者である立場から、役員に就任することで、どのようなメリットとデメリットがあるのかという点を不安に感じるのは、当然のことです。
そこで、ここでは、会社役員や取締役に就任するのは、どのようなメリットやデメリットがあるのかについて見ていきたいと思います。
目次
役員や取締役というのは、会社では、上の立場であることはわかりますが、具体的に従業員とは、どのような違いがあるのでしょうか。
会社役員とは、会社員とは一体、何が違うのでしょうか。
会社法においては、役員というのは、取締役・会計参与・監査役を指しています。
このように、役員というのは、会社法において、定められた役職となります。
そして、役員に任命された場合には、法務局で登記をする必要があり、登記簿に名前が記載されます。
2006年から会社法が変更され、以前は、株式会社の設立には、取締役3名、監査役1名の役員4人が必要でしたが、取締役1人でも設立が可能となりました。
これにより、現在では、代表取締役1名で設立される会社も多く存在します。
役員というのは会社の経営者なので、従業員のような労働者とはみなされません。
そして、従業員が役員になるためには、一度、従業員としての立場を失う、つまり、退職する必要があります。
従業員から、役員になるためには、一度、退職する必要があります。
ということは、従業員ではなくなるということですよね。
従業員とは、会社と雇用関係にある労働者ということになります。
雇用関係になるので、原則、雇用保険の加入対象であり、労働基準法に守られています。
しかし、役員になると、労働者としての立場を失い、経営者になるため、雇用保険の加入対象ではなく、労働基準法の適用もありません。
雇用保険は加入対象外ですが、社会保険に関しては、適用となります。
役員と従業員の違いについて、まとめると、以下のようになります。
役員 | 従業員 | |
立場 | 労働者 | 経営者 |
社会保険 | 対象 | 対象 |
雇用保険 | 対象 | 対象外 |
労災保険 | 対象 | 対象外 |
労働基準法 | 対象 | 対象外 |
報酬 | 給与 | 役員報酬 |
大きな違いについては、上記のようになります。
それでは、上記を踏まえて、役員のメリットとデメリットについて見ていきたいと思います。
それでは、上記で見てきた内容を踏まえ、会社役員や取締役に就任するメリットとデメリットについて、見ていきたいと思います。
取締役・会計参与・監査役などの会社役員になった場合、どのようなメリットがあるのかについて、見ていきたいと思います。
大きなメリットとしては以下のようなものがあります。
それぞれについて、くわしく見ていきたいと思います。
従業員には、基本的には、定年があるため、一定の年齢までしか働くことができません。
それに対して、役員の場合には、定年がありませんので、健康で会社に必要とされている限り、働くことが可能となります。
役員には、会社という組織の中で、経営に携わるなど大きな権限が与えられます。
それぞれの役員ごとの権限は以下のようなものとなります。
・代表取締役
⇒契約書にサインするなど、会社としての意思決定権がある
・会計参与
⇒会計がきちんと行われているかをチェックするため、会計帳簿を閲覧できる
・監査役
⇒健全かつ適正な経営を実現するため、取締役および会計参与の職務執行を監査する
会社の経営方針や運営の決定などに携わることができます。
一から、自分で立ち上げた会社であれば、当然ですが、従業員から役員に昇格した場合にも、経営に参加できるというのは、従業員にはできないことであり、メリットとなるのではないでしょうか。
平成30年度の国税庁の民間給与実態統計調査によると、民間の平均年収は、441万円となっています。
それに対して、平成30年度の国税庁の調査によると、役員報酬の平均は、605万円(資本金2,000万円未満の企業の場合)となっています。
これらを踏まえると、実力次第では、従業員のときよりも、高額の役員報酬を得られる可能性がありますよね。
それでは、役員になることによって、どのようなデメリットがあるのかについて見ていきたいと思います。
それぞれについて見ていきたいと思います。
役員は、従業員ではないので、雇用保険の加入対象外となります。
そのため、万が一、役員を辞めることになった場合もで、雇用保険の失業給付を受給することができません。
また、労災保険にも加入できないので、通勤中や業務中のケガや病気の際の補償も受けられません。
労働基準法も、労働者に対してのものなので、役員には、適用されません。
そのため、有給休暇も付与されませんし、労働時間や残業の概念もありません。
会社の役員であることは、ローンの審査にとって、マイナスに働く可能性が高いです。
源泉徴収票では、役員報酬の額が高かっとしても、役員というのは、会社の経営状況と一体であるとみなされます。
そのため、会社が黒字ではないなど経営状態がよくなかったり、設立して間もない場合などには、審査が通らないことが多いです。
個人のローンの審査と異なり、3期分の決算書などの提出も求められ、会社が継続的に経営できる見通しがあるかどうかを判断されるようです。
会社役員には、大きな責任と解任のリスクがあります。
会社の重要事項を決定できる立場にあるため、会社に与える影響も格段に大きくなります。
そのため、会社に不利益があった場合には、責任を問われることもあります。
正当な理由がある場合には、株主総会によって、解任される可能性があります。
また、会社が、第三者に不利益を与えた場合に、責任を負う必要がある可能性があります。
倒産した場合などには、連帯保証人になっていると、債務を負う必要があります。
上記で見てきたように、役員には、メリットとデメリットがあります。
そこで、これらをうまく利用するための制度として、兼務役員というものがあります。
兼務役員とは、役員でありながら、従業員の性質も持ち合わせたものとなります。
兼務役員として認められれば、労働者と判断されるので、雇用保険に加入することが可能となります。
また、報酬に関しても、役員報酬の割合と従業員としての給与としての報酬に分けることが可能です。
そうすると、会社にとっても、メリットがあります。
原則、役員報酬は、年度途中で増減させることはできないのですが、給与であれば、可能となります。
利益が出た場合などに、賞与として、多く支払えば、役員本人にとってもメリットですし、会社としても損金にできるので、節税のメリットがあります。
また、ご自身が役員である会社に配偶者である妻(夫)を役員として迎え入れるというパターンもあるのではないでしょうか。
このような場合には、どのようなメリットが考えられるか見ていきたいと思います。
それぞれについてくわしく見ていきたいと思います。
役員である夫が、高額の役員報酬を得ている場合には、所得税と社会保険料も高額になってしまいます。
この場合の役員報酬を、夫と妻で分けたほうが、所得税と社会保険料の負担合計は、少なく抑えることが可能です。
そのため、世帯としての手取り金額は増えるということになります。
夫が経営者で、生前に妻名義の預金を残していたとしても、妻への名義預金とみなされてしまい、相続税の対象となる可能性があります。
そのようなことを避けるためにも、妻を役員にしておくことで、相続税・贈与税の対策になります。
妻が役員である夫の扶養になっている場合でも、社会保険に加入していることにはなります。
しかし、扶養の場合には、厚生年金には加入していることになりませんので、妻が、役員となり、自分で厚生年金保険料を負担することで、将来、受け取ることのできる年金額を増やすことが可能となります。
労働実態がない場合には、税務調査で引っかかる可能性がありますが、労働実態がある場合には、役員に対しても、退職金を支給することが可能です。
また、退職金に関しては、損金にすることができますので、会社としての節税効果もあります。
このように、経営者の夫や妻などを会社の役員にすることは、経済的にも会社的にもメリットが大きいものとなります。
会社から役員へ就任の打診をされた場合には、上記を参考にメリットとデメリットを考え、検討してみるのが良いでしょう。
デメリットがあるのも確かですが、役員や経営者というのは、誰でもなれるものではありません。
そのため、リスクがあったとしても、一度きりの人生なので、チャレンジしてみるのも良いですよね。
また、ご自身が経営者である場合には、妻または夫を役員に迎え入れ、節税を考えてみるのも良いでしょう。