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11大企業では何がどう変わり何か変わらないのか

 

11大企業では何がどう変わり何か変わらないのか

 まず、あまり馴染みがないかも知れませんが、大会社のほうからお話をしましょう。
 資本金が5億円以上、負債総額が200億円以上の大会社についての機関設計というのは、今までとほとんど変わりませんが、二つだけ新たに新会社法でできるパターンが登場します。それは何かというと、大会社で、株式譲渡制限会社、いわゆる公開会社ではない会社ですね。先ほどお話ししました株式譲渡制限会社の場合のパターンです。
 株式譲渡制限会社ですと、たとえ大会社であったとしても、いわゆる資本金が5億円以上の大きな会社であったとしても、取締役会を設けてもいいし、設けなくてもいいというようことになってくる。これは今まで考えられなかったパターンです。取締役会を設けてもいいし、設けなくてもいいという形です。
 これはすべてについて共通ですけれども、取締役を設けた場合には、これは現行の商法と同じで、取締役は最低3人必要になります。もちろん、定款でもっと多くすることはで きます。5人とか10人とかにすることはできますけれども、法定上は最低3人。ところが、取締役会を設けないということになると、1人でいいということになる。つまり、取締役は1人でいいという形になるわけです。大会社であったとしても、株式譲渡制限会社であれば取締役1人だけでいいという話ですね。取締役は3人必要ないよということになってくるわけです。逆に、取締役会を設置した場合には、従来どおり3人以上選出する。
 これはあくまで私見なのですが、なぜ3人かというのは、取締役会の決議は多数決で決めるわけです。多数決というのは半数じゃないですよね。どちらかが多くないとだめなのです。取締役か2人いて、1人か賛成、1人が反対だったら決議できないですよね。ところが3人いますと片方はどちらかに、たとえば賛成に回るわけですから、過半数の決議ができるわけです。会議というと、必ず最低3人は必要になってくる。だから、取締役会といった場合には、必ず取締役が3人必要ということになるわけです。けれども、取締役会を設けないのであれば、1人でも2人でも十分という話になってくる。
 これは取締役、取締役会の話ですけれども、監査役につきましても同様です。現行の大会社ですと、監査役会というものを設けなければいけないということになっています。これは、大会社の特例です。監査役は当然のこと、監査役で構成する監査役会を必ず設けなさいという規定になっています。当然、「会」という名前がつくわけですから、取締役会と一緒で、この場合には、監査役は3人必要になります。そうでないと会として決議できないという話になるわけです。
 しかも、この他にも面倒な条件がついていまして、そのうちの半数は社外監査役じゃないといけないのです。だから、社内の従業員から上がっていった人はだめということになります。外部から、少なくとも2人は引っ張ってこなければいけない。また、監査役のうち1人は常勤監査役でないといけない。常勤監査役のほうはまあよいとして、社外から2人引っ張ってこなければいけないというのは大変です。これが大きなネックになっていたわけです。
 ところが、新会社法におきましては、大会社でも、株式譲渡制限会社の場合には、監査役でよいのです。これは取締役会を設置しようがしまいが、どちらでの場合でも監査役でよいという話です。だから、監査役1人で、しかも社外監査役でなくもよいわけです。社内で昇格した監査役でもよいし、元役員や元従業員から選んで監査役につけてもよいし、という話になるわけです。非常にやりやすくなります。
 ということになると、大会社の場合でも、株式譲渡制限会社に該当しますと、取締役1人、監査役1人の会社、もしくは取締役会があって、当然、取締役が3人いますけれども、それと監査役が1人の会社、そういう新しい選択肢が増えます。
 多くの上場会社の子会社というのは、恐らくこういう形態をとってくるのではないかと 思います。上場会社って、結構、株式が未公開の子会社を持っているじゃないですか。あれか大会社に該当する場合には、やむを得ず難しい機関設計をとって。いるわけですけれども、これからは簡単な機関設計ができるわけですから、取締役1人と監査役1人の会社にしたり、あるいは取締役会は設けるけれども監査役は1人の会社、そういうような会社がこれからは出て来ると思います。これは大会社のお話です。

 

12中小会社にはどんなメリットが生じてくるのか

 次に、中小会社の場合です。
 これも極めつけは、やっぱり、株式譲渡制限会社です。会計監査人は設置しないという前提で、本来、設置する必要がないわけですから、あえて会計監査人を設置する会社はないと思います。そうすると、中小会社で、会計監査人を設置しない、株式譲渡制限会社に該当する場合です。この場合には、まったく新しい機関設計ができます。
 この場合にも、まず取締役会を設置する場合と設置しない場合とに、大きく分かれます。設置しない場合につきましては、当然、取締役は1人でよいわけですけれども、中小会社の場合には、監査役の設置も一切要りませんということですから、株主総会と取締役が1人だけの会社ができるということです。つまり、役員が1人だけの会社ができるわけです。非常にシンプルな機関設計、そういう会社が可能になるわけです。複数の役員を設けるの は面倒だということであれば、取締役1人だけでもOKということです。
 取締役会を設けた場合につきましても、監査役を設けるか、監査役会を設けるか、もしくは会計参与という新しい機関を設けるか、それは任意ですよというような形になっています。
 面倒な監査役会なんて設けるわけはないですから、通常は、監査役か会計参与かという話になってくると思います。それでは、会計参与とは何ぞやという話になってくるわけです。
 会計参与については、会計専門の社外取締役と考えていただければわかりやすいと思います。会計を専門とする、決算書の作成を専門とする社外取締役というふうに考えていただければいいですね。ですから、責任や任期については、すぺて社外取締役と同じような取り扱いになっています。会計専門の社外取締役と考えてください。
 会計専門ですから、なれる人の資格というのは限定されていまして、公認会計士、税理士、もしくは監査法人、税理士法人、いわゆる会計の専門家です。国家資格を持った会計の専門家に限定されるということです。ですから、会計参与を1人設ければ、監査役は要らないという話です。取締役会と会計参与という機関設計も可能になりますということです。
 この会計参与について若干つけ加えておきますと、会計参与になった人は、かなり責任が重大です。取締役と同じレペルの責任度合いになっています。
 今後、日本も欧米並みの社会になってきますと、いろいろと訴訟等も増えてくると考えられます。これはちょっと極端な話かも知れませんが、たとえば会計参与が決算書をつくります。我々の仲間がサインをするわけですね。専門家のサインですから、ああこれは間違いないなということで、多くの人はその決算書を信用してしまうわけです。金融機関も恐らく信用するだろうし、会社の仕入先も、決算書を見て、この内容なら大丈夫だろうということで、どんどん商品を納入します。
 ところが、実はこの会社は帳簿をごまかしておりまして、結局のところ倒産してしまいました。すると、金融機関や仕入先からは、うちはこの決算書を信用してお金を貸したのです、この決算書を信用して商品を納めたのです、この決算書が事実と違っていたとはどういうことか、この決算書を作成したあなた損害賠償をして下さい、ということで訴えられるということは、十分に考えられることなのです。
 ところで、決算書は今後、ますます重要視される方向にあります。そういうことであれば、やはり中小会社も、会計原則にのっとった決算書をつくっていかなければいけないなという話になります。ところが、上場会社並みのああいう難しい決算書をつくるのは、非常に大変です。上場会社の場合には、多くの人材を抱え、監査法人の監査も受け、いろいろと指導も受けているから、ああいう難しい会計処理とか決算書の作成が可能なわけです。
 それをすべての会社に押しつけるというのは酷です。そこで、05年8月3日に、中小企業の会計指針というものが新たに公表されました。つまり、今後は、この指針にのっとって適正な決算書を作ってくださいよ、という趣旨です。
 この辺のところも、やはり、先ほどの決算書の公告の場合と同じレベルの話ですね。今までは、税務署対応の決算書で済ますことができた。今後は、果たしてそれがよいのかどうか、これもやはり、皆様方の自己責任で判断していただきたい問題だと思います。

 

13会社の「登記」はどこまでしなければならないか

 このように、いろいろな機関設計ができるようになりますが、社外から見た場合、この会社はどのような機関設計をとっているのか、取締役会のある会社なのか、ない会社なのか、監査役を置いている会社なのか、置いていない会社なのか、会計監査人を置いている会社なのか、置いていない会社なのか、といったことは、外部から見てもわからないわけですよね。それをわかるようにするために、会社の登記簿謄本というものがあるのです。
 したがって、会社の登記簿謄本には、うちは取締役会を設置している会社ですよとか、監査役を設置してる会社ですよとか、あるいは会計参与を設置している会社ですよとか、 そういった事項はすべて登記をすることになるわけです。つまり、うちはこういう機関設計をとっていますよということを、登記をしなければいけないということです。
 ですから、今後は、登記簿に、かなりたくさんの登記事項か登記されることになります。約30項目近くの登記事項が登記されるでしょう。今の登記事項の数とは、比べものになりません。今の登記簿を見ると、すき間だらけ、余白だらけですよね。もう、ああいった登記簿じゃなくなるわけです。びっしり、何だかんだ記載された登記簿に変わってしまうでそうすると、現存の会社についても、新会社法になった場合、そういう細かな登記をすべて済まさなければならないのかということになります。特に、とりあえず今のままの機関設計でいこう、昔ながらのオーソドックスな機関設計でいきます、特に変更はしませんよといった場合に、必要最低限、どれだけ手続きをとらなけれぱいけないのか、たいへん 気になるところです。
 そこで、巻末資料の78ページの1のところをご覧ください。今のままの機関設計でいいよと、従来どおり、旧商法どおりの機関設計でとりあえずいきましょうという話になった 場合に、最低限やらなければいけない登記手続きは、ここで書いてあるとおりです。  ほとんど、大会社に該当する会社の登記事項ですね。監査役会設置会社、これは大会社だけですよね。監査役会設置会社ですよという登記をし、なおかつそのうち社外監査役は誰かということも登記してなければならないということです。監査役会は最低3人の監査役、うち半数は社外監査役でないといけないという話になっています。だから、社外監査役が誰であるかということを、きちっと登記しておかなければいけないという話です。
 また、これも大会社になりますが、公認会計士の会計監査を受けている、会計監査人設置会社ですよという旨の登記、それから会計監査人は○○監査法人であるとか、もしくは公認会計士××××であるとか、誰であるかということをきちっと登記しておかなければいけません。
 新会社法の下では、監査法人や公認会計士も、株主代表訴訟の対象になりますからね。そういう意味もあって、どこそこの監査法人、あるいはどこそこの公認会計士ということをきちっと登記させることになっているわけです。

 

14小会社の監査役の権限がこれだけ広がる

 ここまでの二つは、大会社だけの特例だと思いますが、問題はその次のところです。配当優先無議決権株を発行しておられる会社があるかもしれません。これについては、また後で出てきますけれども、平成14年の商法改正で、いろいろバラエティーに富んだ種類株式が発行できるようになったのですが、それ以前の種類株式は、ほとんど1パターンしかなかったのです。種類株式は1種類しかなかったといっても、過言ではなかった。
 どういう種類株式かというと、ここに載っている配当優先無議決権株という株式です。配当優先とは、配当について普通の株式よりも優遇しますよということです。つまり、配当率を少し弾みます、普通の株式が無配でもこちらは配当いたしますといった具合に、配当についてサービスしますよということです。無議決権とは、一方でこのように配当を優先するのだから議決権はないよ、という話で す。つまり、配当と議決権とがアメとムチの関係にあるわけです。配当を弾む代わりに議決権は与えない、議決権は無しだよ、という形です。これが配当優先無議決権株です。
 ということで、ある程度の確度で、皆様方の会社もこれを発行されているのではないかと思います。発行されている会社につきましては、もう一度登記をやり直さないといけないということを、頭の中に入れておいてください。具体的な登記手続きにつきましては、司法書士さんとご相談いただければよいですが、登記のやり直しをしなければいけないと いうことは、忘れないでください。すでに発行されている配当優先無議決権株がだめになるという意味ではないのですが、もう一度登記をやり直す。今までの登記のフォーマットが変わり、追加の登記事項も必要になるため、新しいフォーマットに沿って登記をやり直 すということです。
 これは、新会社法の施行後6ヵ月以内に済まさなければなりません。また、それまでに他の登記をする必要が生じた場合には、その他の登記と同時にしなければなりません。該当する会社は、忘れないようにしていただければと思います。
 それとあと一つ、監査役の権限です。先ほどお話ししたように、現行の商法では、株式 会社は、小会社、中会社、大会社の三つに分類されています。このうち、小会社の監査役については、会計監査だけやればよいという規定になっています。だから、取締役会への出席も強制はされていない。一方、中会社や大会社については、会計監査のほかに業務監査もしなさいという話になっているのです。
 ところが、新会社法では、中会社と小会社の区分がなくなります。当然のこととして、これまで小会社であった会社の監査役の権限も広がります。今までは、会計監査だけでよかったので、気安く引き受けたけれども、これからは業務監査もしなければいけないという話になってくる。そこで、経過措置というものがありまして、まず株式譲渡制限会社であることが前提ですが、現存の小会社、いわゆる資本金が1億円以下で、負債総額が200億円未満につきましては、新会社法移行後においても、監査役の権限を会計監査に限定する旨の定款の規定があるものとみなしますよ、ということになっています。だから心配する必要はありません。
 ただし、あくまでも株式譲渡制限会社が前提ですから、株式譲渡制限会社でない小会社の監査役さんについては、今後は業務監査もしていただくという話になります。
 このために、新会社法か施行された時点で、株主総会を開いて、いったん監査役を改選するという手続きを踏まなければならなくなります。
 当然、登記簿の記載も書き換えなければならないことになります。ここでも、株式譲渡制限会社であるかどうかということが、重要なポイントになっています。今のうちに株式の譲渡制限規定を設けておくべきかどうかの、一つの判断材料になると思います。

 

15「株式譲渡制限会社」の種々の特典とは何か

 資料の株式譲渡制限会社にはいろいろな特典があるということ、ここが一つの大きなヤマ場ですね。株式譲渡制限会社というのは今までお話したように、ちょっと特殊な取り扱いというか、いろいろな利点がありますよということになります。改めてまとめてみたわけですけれども、これですべて網羅しているわけではありません。重立ったものだけをまとめてみました。
 非常に重要なポイントになりますので、これまでにお話ししたことと重複する部分もあるかと思いますが、順番に説明させていただきます。まず、株式譲渡制限会社については、取締役会の設置は任意であり、設置しない場合には取締役1人でもよいということです。 また、取締役会を設置しない場合には、監査役の設置も任意になるということになります。これは先ほどお話ししたとおりです。
 ところで、平成18年度の税制改正で、いわゆる「1人会社」に対する課税強化規定か設けられることになりました。対象となるのは、同族グループの株式シェアか90%以上で、かつ、同族グループで「常務に従事する役員」の過半数を占めている一定の会社です。
 したがいまして、バリバリの同族会社が取締役1人の会社になってしまいますと、ものの見事に、この規定に引っかかってしまう可能性があります。この点にも十分留意して、取締役の機関設計を考えて行かなければなりません。
 それから2番目として、定款で規定しないといけないのですか、取締役の資格を株主に限定することかできるということです。ですから、株主でなければ役員になれない。あるいは、株主にならないと役員になれない、というような話になってくるわけです。
 それから、先ほど役員の任期の話をしました。現行では、取締役の任期は原則2年、監査役は任期か4年という形になっております。これについては、新会社法においても原則的には変わりません。任期のスタートやエンドの数え方等について、若干変わってきます けれども、2年とか4年という数字自体は変わってこないのです。細かいところはともかく、株式譲渡制限会社の場合には、この2年を10年に延長することができる。当然、監査役についてもそうですね、4年を10年まで延長できることになります。有限会社のように無期限にはできないけれども、10年までは延ばすことができます。だから、今までは、取締役が2年、監査役が4年ですから、頻繁にほとんど年中行事のように役員改選をしていたわけですけれども、今後は10年に1回だけで済むようになるという話です。
 でも、逆に10年に1回だけですから、意外に忘れたりするのですね。えっ、もう10年目かというようなことで、その辺は十分ご注意いただきまして、10年まで延長することができるということ。それから、10年までですから、8年でも7年でもよいのですけれども、最大10年まで伸張することができます、ということです。
 それから4番目として、これも先ほどお話ししましたけれども、監査役の権限を会計監査に限定することができます。これは定款で規定しなければいけないですね。定款で規定することによって、監査役の権限を会計監査に限定することができるということです。だから、先ほどお話ししたように、現存の小会社についても、株式譲渡制限会社であれば、現状のままでいけるということです。

 

16経営権を確保するにはどんな方法がよいか

 それから、pointHの6、7、8、9と大事な話になってきます。ここはもう少し突っ込んでお話をいたしましょう。
 まず、議決権制限株式を発行済株式総数の2分の1を超えて発行することができるということです。これはどういうことかということですけれども、種類株式の話です。普通株式とは違った権利の内容を持った株式のことで、我々が、ふつう、株式といえば普通株式のことですけれども、それに対して、違った権利の内容を持つ株式のことを種類株式といいます。つまり、普通株式とは権利の内容が違う株式ということです。
 平成14年以前は、この種類株式はほぽ1種類しかなかったのです。新会社法の下では、数字上は約500何通りの種類株式ができるのですけれども、平成14年以前はほぼワンパターンしかなかったということです。
 ところで、権利の内容について違いをつけることができる項目というのは無制限にあるわけではなくて、新会社法では、全部で9項目挙げられています。その項目を全て覚える必要はないですけれども、まず、配当です。配当に違いをつけることができます。
 それから二つ目が、残余財産分配権です。会社が解散したときには、会社に残った財産を株主の皆さんに分けて会社を清算します。その残余財産、最後におこぼれをちょうだいする権利が、残余財産分配権です。それについて違いをつける。優先的に分配しますとか、他に劣後して分配しますとか、そういう差をつけることができます。
 三つ目が議決権ということです。議決権に制限をつけるということです。これは議決権がありなしという制限の仕方もあれば、ある決議については参加できないとか、決議項目ごとに参加できる・できないを規定することもできます。また、一定の条件に該当する場合には議決権を行使できませんよとか、そういったことも可能です。
 たとえば、例のニッポン放送の事件で、「敵対的買収防衛策」という言葉が一躍有名になりましたけれども、あらかじめ発行している株式を議決権制限付株式にしておくわけです。株式シェアか20%を超えたら議決権がなくなりますよというような。そういう議決権 の制限条項を付けるということも可能です。いろいろな議決権の制限を付けることができる。これか三つ目です。
 四つ目は先ほどお話しした譲渡制限規定です。新しい会社法では、すべての株式について譲渡制限かありやなしやではなくて、一部の株についてのみ譲渡制限を設定することかできる、というお話をしたと思います。覚えていらっしゃいますか。要するに、このような場合には、譲渡制限株式も種類株式の一つになります。この種類株式については譲渡制限を付けますよ、あとの種類株式はフリーですよとか、逆に、この種類株式についてはフリーですか、残りの株式については全部譲渡制限規定かありますよとか、株式の種類ごとに、譲渡制限を付けるか付けないかを決めることができます。ですから、譲渡制限かあるかないかというのも、一つの株式の種類というような形になってくるわけです。
 あと、覚えている範囲でお話ししますと、拒否権を付けるかどうかということです。これについても、例の一連の企業買収事件で、敵対的買収防衛策の1つとして黄金株という言葉がよく出てきましたね。よく新聞紙上をにぎわせたと思います。これは拒否権の付いた株式のことを指します。どういうことかというと、たとえば株主総会で合併すると決めた。これは特別決議ですから3分の2以上の多数決で決めるわけですけれども、株主総会でせっかく決めたにもかかわらず、特定の種類株式を持っている株主が私は反対だと言えば、その株主総会の決議はだめになる、オジャンになる。だから拒否権というのです。
 特定の種類株主が「うん」と首を縦に振らない限りは、いくら株主総会で決議しようが、取締役会で決議しようが、その決議は全部ダメ、否決されてしまうという、そういう非常に強力な権利を持った種類株式のことを拒否権付株式といいます。そういうこともできるということです。
 あとは、役員の選解任権です。取締役とか監査役とかの選解任権ですね。今後は会計参与も役員になりますが、そういった役員を選解任できる権利のあるなしです。ですから、役員を選べない株主というのが出てくるわけです。たとえば、普通株主は役員を選べませ ん、役員を選解任する権利はありません。こちらの特定の種類株主、たとえばAという種類株主だけで取締役とか監査役を選任する、そういうことも可能になってきます。ところ で、この役員の選解任権付株式を発行できる会社は限定されていまして、発行できるのは株式譲渡制限会社だけです。これも、株式譲渡制限会社の一つの特典ですね。現行の商法でもそうなっています。つまり、新会社法で新たに設けられた規定ではなくて、現行の商法でもそういう規定になっているのです。だから、株式譲渡制限会社につきましては、特定の株主だけに役員の選解任権を集中させることができるのです。現在でもできるのです よ。皆さん、あまりご存じないだけで、できる。この規定は新会社法でも引き継がれます よ、ということです。ですから、株式の譲渡制限規定って非常に大事ですね。あることに よって、いろんなことができてしまうというということですね。

 

17株の買い戻しの3つの効果的方法とは

 あと三つあるのですけれども、あとの三つは、発行している株式を会社が買い取るということです。発行した特定の種類株式を会社が取得するわけです。発行した株式を会社が取得する、つまり、自己株式にしてしまうわけですね。買い戻してしまうという話です。 この取得の方法については、三つの種類あります。これであとの三つはクリアしたことになりますね。
 この買い戻しの方法は三つありまして、一つは会社が強制的に買い戻す場合です。たとえば、20%以上の敵対的な買収者があらわれたら、その株式は強制的に買い戻しますよという具合にです。これを取得条項付株式と呼びます。それが一つのパターンです。
 二つ目のパターンとして、会社による強制的取得ではなくて、株主から請求をすることによって、私はこの株をもう売りたい、会社に戻したいといった場合に、会社はそれを買い取る義務が生じるという形です。これを取得請求権付株式と呼びます。
 もう一つ、三つ目のパターンとして、これは全部取得条項付種類株式といいますけれども、株主総会の特別決議、3分の2以上の決議があればその株式を全部買い取ることができるという株式です。この3番目の種類株式については、今後、非常に利用価値がでてくるものと思います。今日はそこまで突っ込んだ話はできませんけれども、名前だけは記憶しておいてください。非常に長ったらしい名前ですが。株主総会の特別決議でその株式を 全部買い取ることができる。そういう株式も発行することができるようになります。
 これで、全部で九つ、お話ししたと思います。配当、残余財産分配権、議決権、譲渡制限、拒否権、役員の選解任権、それと3種類の株式取得、これで、全部で九種類ですね。 これだけの道った権利の内容を設けることができますということですね。だから、全部で2の9乗通りですから、512通りのパターンが可能になりますよ、という話です。
 なお、新会社法における種類株式について、表にまとめたものを、巻末の資料の78ページに掲載しておりますので、ご参照ください。
 ちょっと話が横道に逸れましたけれども、議決権を制限した株式については、これを無制限に発行できるわけではなくて、発行済株式総数の2分の1までという制限が付されております。そうでないと、ごく限られた株数を持った株主だけで、株主総会の決議をすることができるという話になってくるからです。ですから、議決権制限株式が、発行済株式総数の2分の1を超えてはならないというような形になっているわけです。
 けれども、株式譲渡制限会社につきましては、2分の1を超えて、議決権制限株式を発行することができるようになります。現行ではだめですよ。現行の商法には2分の1という制限はありますが、新会社法におきましては、株式譲渡制限会社に限り、2分の1を超えて発行することができるということです。
 これでどういうことができるかというと、極端な話、たとえば会社の発行済株式総数100株のうち、議決権のある株は1株で、あとの99株は無議決権株ということも可能になるのですね。すると、唯一議決権のある1株を後継者が持っていれば、経営権は安泰という話になってくる。これからは、そういう種類株式の設計も可能になるという話です。
 だから、3分の2シェアを押さえなければいけないとか、過半数を押さえなければいけないとか、種類株式の設計の仕方によっては、もう、そういうレベルの問題ではなくなってくるという話です。そもそも、株式譲渡制限会社というのは、閉鎖的な会社を前提にしているわけです。同族だけの閉鎖的な会社を前提に、こういう規定を設けているわけですから、別にそれで弊害はないわけです。むしろ、同族だけできちっと、同族の人たちだけで着実に経営を承継していったほうが望ましいわけですから、あえてこういう規定が設けられているわけです。新会社法におきましては、いろいろなコペルニクス的転換がありますけれども、これも、そのうちの一つです。

 

18「定款」は経営権確保のためにどう変えられるか

 それから、それと並んでもう一つ重要なのは次の7です。
 先ほどは、種類株式を使って、経営権の確保や事業承継を済ませるという話でしたけれ ども、次の7番目のところ、これは種類株式ではありませんが、定款に規定することによ って似たようなことができますよという話です。剰余金の配当や議決権等に関し、株主ご とに、定款で別段の定めを置くことができますということです。
 どういうことかというと、配当や議決権について、株主平等の原則を無視して属人的な決め方ができるという話です。そうすると、うちの会社の株式については、一族以外の株主は議決権を有しない、というような規定を設けることができるのではないか。その会社の株式を持っている人が一族でなければ議決権はない、だから、その株式が一族以外の人に渡ったとしても、その人は株主であるけれども議決権はない、議決権のない株主というような形になります。そういう決め方ができるかもしれないのです。  まあ、配当で差をつけるということはあまりないと思いますけれども、議決権でそうい うふうな差をつけることができる。いわゆる属人的な規定を設けることができるということです。
 もう少し穏やかな話をすれば、議決権の数というのは株数に応じてあるわけでしょう。 2株を持っている人は1株を持っている人の倍、議決権の数があるわけです。だから、たくさん株式を持っていれば持っているほど、議決権の数も多いわけですね。株主総会での発言力が強いわけです。ところが、たとえば、株主1人につき1議決権ですよというふうに規定することもできる。だから、たくさん株を持っている人も、少ししか持っていない 人も、みんな1票ずつ議決権を持っている。そういう決め方をすることもできるという規定です。
 配当だってそうですね。1株につき幾らじゃなくて、1人につき幾ら配当しますよと、 そのようなこともできるという話です。自由にそのような設計ができるという話になってくるわけです。よく定款自治といいますけれども、定款に規定を設けることによって、かなり自由なことができるという話です。この制度は非常に使い勝手がいいと思います。かなりの利用価値があるのではないかと思います。
 ところで、定款にそういう規定を設ける場合ですけれども、まず、定款の変更をしなければいけませんね。その場合には、通常の定款変更の要件よりも厳しくなっています。つまり、特別決議よりも厳しくなっていまして、総株主の半数以上、かつ総株主の議決権の 4分の3以上となっています。株主の人数でいけば半数以上、議決権の数でいけば4分の3以上の賛成かないと定款変更かできないという話になります。でも、いったん、定款変 更してしまえばこちらのものです。だから株主か分散しないうちに、さっさと定款変更してしまったほうか勝ちという話になります。
 私としては、6番の議決権制限株式よりも、むしろ7番のほうが使えるのではないかと 思っております。7番の規定については、ちょっと頭に入れておいていただきたいと思います。種類株式を利用する場合、新たに種類株式を発行するのは簡単ですが、既存の株式を種類株式に換えるというのは非常に難しい。少々、テクニックを要するのですね。先ほどご説明した取得条項付株式を使うことになるでしょう。紙面の制約上、ここでは詳細を お話できませんけれども、おそらくこれを使うのです。そして、全部、種類株式に換えて  ところが、こちらの7番目の定款変更なら、もっと簡単にできる。そうすると、この7番目の規定というのは、非常に大きな重要性を持っていることになります。

 

19「相続」による株式の移動への対処法は

 それから、次の8番目のところです。ここも非常に大事なところです。
 株式譲渡制限会社は、株式の譲渡について制限を設けているわけですけれども、現行の商法の譲渡制限規定ではできなかったことまで、新会社法ではできますよという話になっています。
 どういったことが挙げられるかというと、たとえば、株主間の譲渡については承認を要しないとか、特定の属性を有する者に対する譲渡については承認権限を代取に委任するか承認を要しない旨の定めを、定款で規定できるということです。
 同族間で株式を移動する場合、たとえば、オーナーである親から後継者である子に株を生前贈与しますよといった場合、今の商法では、たとえオーナー一族の親子間の贈与であったとしても、取締役会の承認は必要です。もし取締役会の承認を受けていなければ、その移動は会社に対しては無効になる。いくら後継者が私は株主ですと言ったとしても、会社はそれを認めないということになります。ところが、新会社法では、定款に、株主間の譲渡はフリーにしますよとか、後継者や身内に譲るときには代表取締役の承認でよい、という規定を設けておけば、スムーズに生前贈与を行うことができます。
 次に、取締役会設置会社においても承認機関を株主総会とする、承認手続きを厳しくすることができるということです。取締役会を設置していない会社については、当然、株主総会が承認機関になりますけれども、取締役会のある会社についても承認機関を株主総会として、より厳しくすることができるということです。
 それから、非常に重要なのが、一番最後のところです。相続や合併による移転についても承認の対象とすることができるということです。現行の法律の規定では、承認の対象としてほとんどの株式の移動をカバーしているのですが、たとえば、贈与であっても、代物弁済であっても、物々交換であっても、当然、承認の対象になります。ところか、対象とできないものがおおよそ二つありまして、法律的には一般承継といいますが、それは合併と相続による承継です。
 合併による承継はまあよいと思うのですが、同族会社でよく問題になるのは、やはり相続による承継です。たとえば、ご一族の皆さんが全て、仲がよろしければよいのですが…。けれども、相続が発生して相続権を主張されれば認めざるを得ず、当然、株式はその人のもとに行ってしまいます。いくら株式の譲渡制限規定があるといっても、会社としては反対することはできません。でも、さすがに、相続や合併による移転を認めないわけには行きません。
 そこでどうするかというと、相続や合併による移転を承認したくない場合には、その株式を会社が買い取ることができることにしています。このようにして、株式を承継した人と会社の両方を救済する形をとっているのです。
 そこで、まず、定款に、株式を相続などで取得した人に対して、その株式の売り渡しを請求できる旨の規定を設けておきます。そうすると、会社は、相続人に対して売り渡し求をすることができ、強制的に株式を買い取れることになる。会社が好まない相続人に株式が渡るのを避けることができる。株式を買い取るわけですから、当然、価格交渉という問題は残りますが、ともかくお金を出せば好まざる相続人に株式が渡ることは防げる、そういう規定になっております。これは、現行はでなかった規定ですね。

 

20非上場会社の「自己株」取得はどう簡便になったか

 ここで、会社が相続人から株式を買い取ることができるという規定について、若干つけ加えておきたいと思います。巻末資料の43ページ以降を見てください。
 自己株式の取得ということですが、これは平成13年に解禁になりました。ところが、取得をするための手続きが結構面倒で、何か面倒かというと、定期株主総会の決議がないと取得ができないことです。そうすると、ある時突然買い取りたいと思っても、次の定時株主総会まで待たなければいけない、タイミングによっては、1年近く待たなければならない、そういう不便さがあるわけです。ところが、新会社法におきましては臨時株主総会でいいよ、随時、臨時株主総会を開いて取得の決議をしてくださいという形になっています。
 今の話ですが、上場会社の場合は別ですよ。上場会社の場合には、取締役会の決議で市場から買い取ることも可能です。あくまでも、非上場会社の話ですよ。だから、株式を公開していない会社でも、随時自己株式の取得ができるようになります、ということです。
 それが一つの大きな改正点です。この表の上から2行目までが上場会社の話ですから、それより下の話です。
 その中で、下から2行目のところ、株式譲渡制限会社が株主の一般承継人、つまり相続人からその株式を取得することができますよというところ、こういう規定が新たに設けられました。
 この規定は非常に大事ですので、46ページをめくっていただきたいと思います。相続人から株式を買い取る方法として、次の二つのやり方があります。前のページに記載されていたのは、この表の左のほう、一般承継人(相続人)からの合意による取得の場合です。
 合意による取得とはどういうことかというと、相続人のほうからも売りますよという同意が得られた場合、お互いに同意のもとで売買をする場合です。対して右のほうは、同意が得られなかった場合、会社のほうで強制的に買い取ってしまう、つまり、先ほどお話をしたように、会社が相続人に対して売渡し請求する場合です。その辺か大きな違いです。
 それぞれ少しずつ内容か違っていまして、公開会社の場合には、相続人との合意による取得はできない。公開会社というのは株式譲渡制限会社以外の会社のことです。売渡し請求の場合は、譲渡制限株式について適用ありということですから、公開会社であったとし ても、譲渡制限株式については適用があるという話です。つまり、種類株式として譲渡制限株式を発行している場合には、その株式については売渡し請求かできます、ということです。
 次に、定款の定めか必要かどうかということですが、合意による取得の場合には、不要です。両者合意のもとで売買するわけですから、自由です。定款の規定なんか要らない。ところが、売渡し請求の場合には、強制的に買い取ってしまうわけですから、必ず定款の定めか必要ですよということになります。
 両方とも利用できたほうが便利なわけですから、右の定款の規定も設けておいたほうがよいという話になります。もし設けなければ、合意による取得しかできない、相続人が同意しない場合には取得できないことになります。定款の規定を設けると、強制的に買い取ることもできるということで、会社としての選択肢が増えるわけです。
 ということで、この定款の規定を設けるかどうかということは、すごく大事なことだと思います。新会社法施行後、定款変更の議案のひとつとして検討してみる価値はあります。
 ただしですが、この定款の規定は会社の株主構成次第で両刃の剣になりますから、十分な注意が必要なのです。
 資料にも書いてあるとおり、この売渡し請求をする場合には、株主総会の特別決議が必要ですが、この株主総会においては、株式を承継した相続人は議決権を行使することができません。
 もし、相続人以外の他の株主の多くが、敵対する株主であった場合にはどうなりますか。
 敵対派の意のままになってしまいますよね。
 つまり、敵対派の相続人に対する売渡し請求は否決し、味方である相続人に対する売渡し請求は可決するということになりますね。
 このように、この定款の規定は両刃の剣ですから、導入するにあたってはいろいろなケースを想定し、慎重に検討していかなければなりません。

 

21「売主追加の議案変更請求」を防止できる

 それから、買取りの期限ですが、合意による取得の場合には、相続人が相続した株式について議決権を行使した段階でアウトということになります。議決権を行使したということは、私は株主として残りますよと意思表示をしたことになるわけですから、それでアウトということになります。だから、議決権が行使されるまでに買い取ってくださいということです。
 通常の場合、議決権行使の場というのは定時株主総会ですから、次の定時株主総会までの間に決着をつけてしまうという話になってきます。これに対して売渡し請求のほうは、承継から1年以内に請求をしないと無効になります。いわゆる相続発生から1年以内に請求をしてくださいということです。
 それから、非常に大切なことは、売主追加の議案変更請求という規定かありまして、これも非上場会社が自己株式を取得するときの一つの大きなネックになっています。非上場 会社が自己株式を取得する場合には、誰々さんから取得したいというケースがほとんどだと思います。
 しかし、このように特定の人を指定してしまいますと、指定されなかった人は不公平に思うわけですね。私も売りたかったのに、と。そこで、指定から外れた人については、私も売主に加えてください、と請求する権利が与えられています。それがこの売主追加の議案 変更請求権です。
 これがあるがために、ある人から買い取りたいと思っても、他の人も手を挙げてしまった、買い取りの枠は決まっているわけですから、本来全部買い取るはずの人から半分しか買い取れなかった、3分の1しか買い取れなかった、という話になる。こういう非常にやりにくい状況になるわけです。
 ところが、この二つの方法で相続人から自己株式を取得する場合には、どちらも、合意 による取得の場合も、売渡し請求の場合も、売主追加の議案変更請求はできないことになっています。特定の相続人だけから、自己株式を取得することかできるということです。
 もう一つ、売主追加の議案変更請求の話ですけれども、資料の44ページに戻っていただいて、表の下のところに、(注3)というのかあります。この(注3)の②を見ていただきたいと思いますか、売主追加の議案変更請求も、定款で排除することができるということです。あらかじめ定款に規定をしておけば、売主追加の議案変更請求を排除することが できる。ただし、定款を変更する場合には、株主全員の同意が必要になります。株主全員の同意かとれるということであれば、あらかじめこういう規定を設けておくと自己株式がやりやすくなります。これも、定款変更の検討項目の1つとして、挙げておかれるとよろしいかと思います。
 定款変更の検討課題は、ここだけでも、二つありましたね。株式の相続人に対する売渡し請求の規定と、もう一つは、売主追加の議案変更請求ができないという規定。少なくとも自己株式の取得については、売主追加の議案変更請求かできないという規定を定款に設けておいたほうか、何かのときに助かります。この二つの検討項目を記憶しておいていただければと思います。