法人を設立するなら知っておきたい「印鑑が必要な理由とその選び方」
電子契約の普及によって、「法人印鑑はもう必要ないのでは?」と考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実際のビジネスでは、押印を求められる場面がたくさんあります(契約書締結、銀行取引、行政手続きなど)。この記事では法人印鑑の具体的な役割、種類、選び方をわかりやすく解説します。
目次
法人印鑑の種類
第1章では法人印鑑にはどんなものがあり、それがどんな用途で使われるのかをご紹介します。
そもそも法人印鑑とは何ですか? どんな種類がありますか?
会社実印(代表者印)のほかに、銀行印、角印、ゴム印の4つが基本です。それぞれ役割が違うので、使い分けが大切ですね
紛失や盗難のリスクがあるから、管理方法にも注意が必要なんだ
印鑑の種類 | 主な用途 |
会社実印(必要なケースもアリ) | ・商標登記(会社設立、変更登記) ・重要な契約 ・法人口座の開設(特に大手銀行で必要) ・行政手続き(許認可申請、届け出)など |
銀行印 | ・法人口座の開設 ・融資申請、小切手・手形の発行 ・日常の銀行取引(振込・貯金)など |
角印 | 見積書、請求書、領収書などの日常的な対外文書など |
ゴム印(社名・住所の表示) | 郵便物、領収書など |
会社実印(代表者印)
法人印鑑のうち、最も重要なのが会社実印(代表者印)です。
これを押印することで会社の意思を示し、かつ法的な効力を持つからです。
法人を設立した場合、たとえば、次のような場面で使われます。
- 商業登記(会社設立、変更登記)
- 重要な契約
- 法人口座の開設(一般的には必要。特に大手銀行)
- 行政手続き(許認可申請、届出など。必要としないケースも増えている)
なお、会社実印(代表者印)は、厳重に管理しなければなりません。保管方法や使用権限、使用記録などについてルールを設け、これを徹底します。
紛失・盗難ということになれば契約などの手続きに支障が出ますし、不正使用されれば会社の存続にかかわる深刻な損害を被るからです。
万が一、紛失したり盗難に遭ったりしたときはすぐに法務局に連絡し、再登録の手続きを取る必要があります。
銀行印
銀行印は、文字通り金融機関との取引で使われる印鑑です。
会社実印(代表者印)を銀行印として使用してもかまいませんが、紛失・盗難・悪用などのリスクが高まるため、「銀行印」を別に用意するのが一般的です。
角印
「角印」は、日常的なビジネス書類に使われる四角い印鑑のこと。見積書や請求書、発注書などで使われます。
電子書類の場合は不要となるケースも増えていますが、依然として書類の正式性を示すための押印を求められるケースは多いです。
取引先(取引書類)からの信頼を損ねないためにも、これも用意しておくのが一般的です。
ゴム印
ゴム印は、社名や住所、連絡先などを表示するための印鑑です。
郵便物や封筒、配布物、領収書などにいちいち手書きする手間を省くと同時に、誤記を防ぐことができます。
また、ゴム印を使用することで、受け取った相手に与える印象も良くなります。手書きよりも、「会社らしさ」が伝わります。
なぜ法人印鑑が今も必要なのか
第2章では、法人印鑑がなぜ今も必要なのかを、中小企業経営者に対するアンケート結果も交えてご説明します。
電子契約やデジタル署名が普及し始めている中で、法人印鑑って本当に作らなければいけないんですか?
たしかに2021年の法改正で、商業登記のときの印鑑登録は任意になりました。でも、起業してからの経営の現場では押印を求められることは多いですよ
重要な契約や銀行取引で必要になることが多いから、用意しておくとビジネスがスムーズに進むよ
「会社実印(代表者印)」が必要な理由
従来は法人登記の際に会社実印(代表者印)の登録は必須でした。しかし、2021年2月15日以降、オンラインで登記申請を行う場合には任意となっています。
(オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について/商業・法人登記)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00072.html
しかし、会社を経営するにあたっては作成することを強くおススメします。
法人登記が印鑑登録なしにできたとしても、実際に経営を始めたときには、たとえば、こんな不都合が想定されるからです。
「契約したい相手から会社実印(代表者印)の押印を求められ、スケジュールが大幅に狂ってしまった」
「大手銀行で法人口座を作ろうとしたところ、会社実印(代表者印)の登録が必要とわかり、その分、時間と手間がかかってしまった」
「取引先から印鑑証明書の提出が求められたが印鑑登録しておらず、相手からの信用を失った」 このように、重要な契約や大口の取引では、今も会社実印(代表者印)の押印を求められるのが一般的です。
第1章とも一部重複しますが、会社実印(代表者印)の押印が求められることの多い場面を、いくつか列挙するとこうなります。
- 商業登記(会社設立、変更登記)
- 重要な契約
- 法人口座の開設(一般的には必要。特に大手銀行)
- 行政手続き(許認可申請、届出など。多くの場合に必要)
- 不動産取引
- 株主総会の議事録(押印することが一般的)
- 訴訟
会社代表印だけではありません。
業界や会社の規模によっては、日常的なビジネス文書(請求書、発注書、領収書、見積書など)への押印の習慣もまだ色濃く残っています。取引相手に対しても押印を求めるケースが多いため、角印やゴム印も用意しておいた方が、ビジネスがスムーズに運ぶのです。
アンケートでも「脱ハンコ」のハードルの高さが浮き彫りに
ここまで記してきたことは、実際に会社を動かす経営者の声にも表れています。
たとえば、プロフェッショナルテック総研(弁護士ドットコム株式会社内)が、電子契約サービスの「クラウドサイン®」を導入している209社を対象にした調査(2024年6月14日〜6月25日)をみると、直近1年間の業務において、印鑑を使う手続きに関わった経験のある会社は次のようになっています。https://www.cloudsign.jp/media/2024research-stamp
社外向け書類……84.7%
〈社外向け書類の種類別〉
- 「契約書」86.4%
- 「公的な申請書類など」43.5%
- 「注文書」39.0%
- 「請求書」32.8%など
社内向け書類……69.9%
〈社内向け書類の種類別〉
- 「各種申請書類」61.0%
- 「議事録」36.3%
- 「稟議書」30.8%
- 「回覧文書」30.1%など
また、印鑑の使用が続いて理由としては、「顧客や取引先の意向」、「制度的に押印が必要な文書がある」、「昔からの慣習で、変えることにコストがかかる」などが上位でした。
このように、顧客や取引先の意向も絡んでくるだけに自社の都合で「脱ハンコ」を実現するのは難しく、まだまだ多くの場面で押印が必要とされている現状がわかります。
法人印鑑の選び方と購入先
ここまでは法人印鑑の種類と用途、その必要性について記してきました。次は、印鑑はどのように選んだらよいのかをご説明します。
印鑑はどこで買うべきで、選ぶ際には何を基準にすればいいんですか?
専門店かオンラインショップで買えます。実物を見て品質を確認したければ、専門店がいいですね
価格は幅広く、一番安いものだと、セットで5,000円程度から手に入るよ。相場は数万円~といったところかな
印鑑のサイズは「会社実印(代表者印)」にのみ規定あり
会社実印(代表者印)のサイズには、「1㎝以上3㎝以内の正方形に収まるもの」という規定があります(商業登記規則第9条)。
他の3つの印鑑に関して規定はありませんが、取引を円滑に行うために、それぞれ一般的によく使用されるサイズに合わせるのが無難でしょう。
また、銀行印に関しては、印鑑の誤用や紛失・盗難などを防ぐため、会社代表者印とはサイズを変えるのが一般的です。
書体は偽造されにくいものを選ぶ
書体には、偽造されにくい篆書体や吉相(印相)体、古印体がよく使われます。
社名に使われる文字の種類(漢字、カタカナ、ひらがな、アルファベットなど)や、ご自身の好みなどから決めるとよいでしょう。
人気の素材は「柘、黒水牛、チタン」など
素材については、長期間使用することを前提に選びましょう。
「木」(柘など)の他に、高級感や耐久性の高さで勝る「黒水牛」や「チタン」が人気です。
金額は3種類セットで1万円~数万円が相場
印鑑の金額は、素材や書体、購入先によって大きく変わります。
代表印・銀行印・角印のセットで安いものでは5000円程度、高いものはその10倍以上にもなります。一般的には1万円前後~数万円が相場といえるでしょう。
購入先は専門店かオンラインショップで
印鑑専門店やオンラインショップが定番です。
時間をかけず、広く比較検討しながら安く済ませたいならばオンラインショップが便利ですし、逆に、長く使うものとして品質にこだわるのであれば、専門店で実際に相談・確認してから購入するとよいと思います。
法人印鑑を作るタイミング
この記事の最後として、印鑑を購入するタイミングと、その後にすべき手続き(印鑑登録、印鑑証明書の取得方法)についても触れておきます。
印鑑を作った後は、どんな手続きが必要ですか?
印鑑を作ったら、それを法務局に登録し、あわせて印鑑カードをつくります。これがないと取引先から印鑑証明書を求められたときにすぐに対応できません
印鑑証明書が必要な時には、窓口のほか、郵送やオンラインでも申請できるんだ
法人印鑑を作るタイミング | 備考 |
①商号・所在地の確定 | |
②定款の作成・登記申請 | ・ここまでに会社の実印(代表印)を作っておかないと、登記申請と一緒に印鑑登録ができない。 ・事業を開始したいときに、印鑑証明書を取得できない。 |
③法人口座開設 | 一般的に、会社実印(代表印)がないと、法人口座を開設できないケースが大半 |
④事業活動開始 | 日常的な業務、対外的な取引が始まった時に、角印やゴム印が必要になる |
適切なタイミングを逃した場合 | 業務上、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があり、損失が大きい |
印鑑の作成は設立登記前に
法人印鑑は、商号と所在地を決め、定款を作成した後にすぐに作りましょう。法務局で設立登記をするときに、印鑑登録も一緒に行うためです。
前記のとおり、オンラインで設立登記をするとき場合には会社実印(代表者印)の提出は任意ですが、書面で申請する場合には必ず印鑑が必要になります。
「印鑑カード」がないと印鑑証明書を取得できない
会社実印(代表者印)を作成したら、法務局に「印鑑届出書」を提出して登録します。このとき、「印鑑カード」も同時に申請します。印鑑カードがないと、印鑑証明書を取得できません。
なお、印鑑証明書は、法務局の窓口(あるいは証明書発行請求機)のほかにも、郵送かオンラインで取得できます。
手続きしてから数日で発行されますが、必要となってから慌てないためにも、早めに取得しておけばビジネスがよりスムーズに進みます。
まとめ
いかがでしょうか。押印に関しては、「もう必要ないのでは?」という声がある一方で、取引相手から求められることが多く、止めるにはハードルが高いのが現状です。印鑑がないと、さまざまな不都合や不便が生じます。
会社設立を考えていらっしゃる方は、法人印鑑をセットで揃えて、ビジネスを円滑に進めていってください。