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会社設立時の資本金はどう決める?必要な手続についても解説

会社設立をする際には、資本金の額を決めなければなりません。資本金の額は基本的には自由に決定することができますが、かえって相場がわからず起業を考えている人を悩ますこともあります。そこで、会社設立を検討している人に向けて、資本金の決め方や資本金にまつわる手続について説明します。(文:松浦絢子弁護士/松浦綜合法律事務所)

1.資本金とは何か

資本金ってよく聞くけど、一体何だろう?
さとし君
さとし君
簡単に言うと、会社設立の際に出資されたお金のことね。資本金が多いほど会社の信用力が上がるイメージだけど。
アンナ先輩
アンナ先輩
松浦弁護士
松浦弁護士
その通りです。資本金が多い会社は、少なくとも設立時点でそれだけの資金を集められたということを意味するため信用力が高いとされるのが一般的です。
マリオ教授
マリオ教授
会社への出資は金銭以外で行うこともできるよ。これを現物出資という。金銭の出資の場合とは手続が異なるから注意が必要だね。

1-1.資本金の意味

会社の設立にあたっては、資本金を定める必要があります。資本金とは、簡単にいうと会社の設立に際して出資者(多くの場合、社長や役員となる予定の者)が会社に対して出資したお金です。ただし、必ず出資金が100%資本金となるわけではなく、出資額の一部を資本準備金として計上することもあります。
なお、会社設立時の出資は金銭以外によって行うことも一応可能となっています。例えば、事業に利用するための不動産や知的財産を出資するような場合です。これを、現物出資といいます。現物出資にあたっては、目的物が過大評価される可能性が否定できないため、財産の価額が500万円を超える場合には検査役の調査または弁護士等の証明を受けなければならないとされています。
ただし、現物出資の内容が市場価格のある有価証券である場合には、財産の価額にかかわらず検査役の調査や弁護士等の証明は不要となっています。市場価格のある有価証券であれば、客観的に価額の評価が可能であるため、過大評価の危険性は少ないためです。

1-2.資本金の役割

資本金制度は、基本的には会社の取引相手の保護のためにあります。会社の株主は、会社が倒産した場合に株式に相当する分の損をこうむるものの、会社の取引相手に対して直接支払いをする義務は負いません。これを、株主の有限責任といいます。
そうすると、取引相手としては会社自身が保有している財産から支払いを受けるしかなくなります。このとき、会社が保有する財産がどの程度あるかを示すのが資本金といえます。
少し難しい話になりますが、会社は利益が出ると株主に配当を出すことができます。しかし、利益のすべてを配当としてしまうと会社内に財産が残らなくなってしまいます。そこで、資本金に相当する分を除いた金額のみを配当できることとしています。このように、配当として財産が外部へ流出することに一定の歯止めをかけるのが資本金の役割といえます。
ただし、資本金に相当する財産をどのような形で保有するかは会社の自由となっています。このため、会社が倒産したような場合に必ず資本金に相当する財産からの支払いを受けられるとは限らない点に注意が必要です。

2.資本金の最低金額は撤廃された

資本金の金額はいくらでもいいと思う?
アンナ先輩
アンナ先輩
さとし君
さとし君
昔は資本金1000万円という会社をよく見たけど最近は資本金がもっと少ない会社も見たことがあるよ。
松浦弁護士
松浦弁護士
かつては株式会社の資本金は1000万円以上と定められていました。しかし、2006年に法律が変わって会社設立時の出資額は1円でもよいこととなりました。

資本金の金額について、かつては最低限用意すべき金額が法定されていました。これを、最低資本金制度といいます。具体的には、株式会社については最低1000万円、有限会社については最低300万円の資本金を用意することが求められていたのです。
しかし、新規の起業を促すため、2006年に成立した会社法において最低資本金制度が撤廃されました。このため、現在では会社設立時の出資額は1円とすることも可能となっています。
なお、厳密にいうと資本金は出資額から設立費用等を差し引いた金額となるため、出資額が設立費用に満たない場合には資本金は0円となることがあります。

3.資本金の額をどう決めるか

さとし君
さとし君
とはいえ、資本金1円の会社と取引するのは何だか不安だな。
実際に、資本金が少なすぎると融資が受けられないこともあるわよ。
アンナ先輩
アンナ先輩
松浦弁護士
松浦弁護士
業種によっては許認可を受けるために最低限の資本金が要求されていることもあります。一方で、資本金が1000万円以上だと消費税の免税が受けられなくなるため、多ければいいというわけでもありません。
マリオ教授
マリオ教授
会社設立から2年間受けられる消費税の免税はとても大きいよ。税理士の先生や税務署によく確認しよう。
最低資本金制度が撤廃されたとはいえ、実際に資本金1円として設立している会社は多くはありません。これは、会社を経営する上で資本金の額が一定の意味を持っているからです。

3-1.資本金額は融資や取引上の信用に影響する

資本金の額は、会社の信用に直結します。なぜなら、資本金は借入金を充てることができないため、少なくとも会社設立の時点で資本金額に対応する自己資金が存在していたことの証明となるからです。
また、上で説明したように資本金には配当として会社の財産が外部に流出することを防ぐ言い合いもあります。資本金額が大きいほど、会社に留保されるべき財産の額も大きくなるため、資本金の額は取引相手からすると安全な取引ができるかの指標となります。
このように、資本金の金額は会社にとって対外的な信用を示すものといえます。したがって、金融機関等からの融資を受ける場合には、資本金額が少ないと融資を受けにくくなる傾向にあります。また、金融機関に限らず、他社と取引を始める場合には資本金額が審査の対象となることも多いといえます。
ただし、会社の代表者が取引先と懇意である場合など人的な信頼関係が構築されている場合には、資本金の額に関わらず取引ができることもあります。また、物販業や飲食業など企業間取引が少ないビジネスの場合には、それほど資本金の額が取引に影響しないこともあります。

3-2.許認可において一定額以上の資本金が要求されることも

資本金額を決めるにあたって注意しなければならないのは許認可を要する業種です。許認可を取得するために最低限必要な資本金額が定められていることがあるためです。
例えば、有料職業紹介業では500万円、一般労働者派遣事業では2000万円が最低限必要な資本金額として定められています。
また、建設業許可(一般)においては財産的基礎要件として500万円以上の定めがあります。これは、預金残高証明等により500万円以上を保有していることを証明することにより代替できるのですが、残高証明を取得する手続が面倒であることから実務上は資本金を500万円以上とすることとなります。
このように、業種によっては最低限必要となる資本金額が決まっていることがありますので、事前に確認しておく必要があります。

3-3.消費税免税のためには資本金1000万円未満とする

以上からすると、資本金はできるだけ多くする方がいいと思われるかもしれません。しかし、節税という観点からは資本金額は大きければ大きいほどいいというわけではありません。
会社を設立すると、原則として消費税を納付する義務を負います。ただし、会社設立時の資本金額が1000万円未満である会社については最大2年間消費税の納付義務が免除されるという特例があるのです。これは、会社設立当初だけ認められる特例であり、節税の観点からは極力利用したい制度です。このため、特に必要がない限りは資本金額を1000万円未満としておくことをおすすめします。
かつて株式会社の最低資本金額が1000万円と定められていた影響で、現在でも何となく資本金を1000万円とする会社もあるのですが、資本金を1000万円とすると消費税の免税が受けられないため注意が必要です。
また、税金との関係では法人住民税均等割の金額も見逃せないポイントです。会社を設立すると、会社の事業所が所在する地方自治体に対して法人住民税を納付する義務を負います。法人住民税においては、均等割と呼ばれる一定の金額については会社の収益にかかわらず必ず納付しなければならないことになっています。
この均等割の金額が、資本金額によって異なるのです。例えば、東京23区で従業員50人以下の会社の場合、資本金が1000万円以下であれば均等割は7万円となりますが、資本金が1000万円を超えると均等割が18万円と大きく増加します。
以上から、消費税と法人住民税の節税という観点からは、会社設立時の資本金額は最大でも1000万円未満とすることが得策です。

4.資本金について会社設立時に必要となる手続

さとし君
さとし君
資本金の金額が決まったとして、そのあとの手続はどうなるのかな?
松浦弁護士
松浦弁護士
資本金に相当するお金がきちんと会社に存在していることを確認するために、厳格な手続が法定されています。
マリオ教授
マリオ教授
会社設立登記までは会社名義の口座は作れないから、どのような口座で出資金を受け入れるかもポイントとなるね。

資本金の金額が決まったら、実際にその金額を資本金とするための手続が必要となります。なぜこのような厳格な手続が定められているかというと、現実に資本金の額に対応するお金が現実に存在していることを担保するためです。
資本金に関する手続は、会社設立の方法によって多少の違いがあります。会社設立の方法には、発起人が1人で設立する発起設立という形態と、発起人以外からの出資を受ける募集設立という形態の2種類があります。
多くの会社は発起設立として設立されますが、最初から外部の出資を受ける予定があるような場合には募集設立となることもあります。

4-1.発起設立の場合

まずは、金融機関に出資金の払込を受けるための開設する必要があります。会社自体はまだ存在していませんので、会社名義の口座は作れません。そこで、「〇〇株式会社発起人A」などといった個人名義の口座を開設することが一般的です。
次に、開設した銀行口座に出資金の払込を受けます。そして、払込を受けた口座の預金通帳の写しを会社設立登記の申請時に提出します。

4-2.募集設立の場合

募集設立の場合、金融機関に出資の払込を受けるための口座を開設するのは発起設立と共通です。
募集設立に特有の手続は、銀行口座に出資金の払込を受けたことを証明するための資料として、金融機関の保管証明書が必要となる点です。この点で、発起設立よりも若干手続が面倒になります。

5.会社設立の際には専門家に相談を

今回は、資本金の決め方や手続について紹介しました。大まかな流れを理解した後は、具体的な手続きについてプロに相談すると安心です。会社設立において必要となる複雑な手続きも、税理士や司法書士、弁護士などの専門家に相談すれば、スムーズに進めることができます。どのような事務所に相談するべきかわからないという場合は、まずは本サイトの窓口へ問い合わせてみましょう。

著者情報
松浦絢子 弁護士
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法科大学院出身。東京弁護士会所属(登録番号49705)。

松浦綜合法律事務所