会社設立後すぐに従業員を雇いたい!社長が知っておくべき正社員と非正規社員の違い
労働に関しては、かなり細かいルールが法律上設けられていますが、今回は従業員を新たに雇用する際に最低限知っておくべき点をかいつまんで説明した後に、雇用形態について正社員と非正規社員とで何が違うのかを詳しく解説します。
人件費は特に設立間もない会社にとっては大きな負担となり得ますので、雇用形態の選択は会社経営上も重要な意味を持ちます。
目次
1.従業員の雇用に関する法律
労働に関する法律でもっとも有名なものが労働基準法です。労働基準法は、基本的に労働者を守ることを目的とした法律であり、雇用主となる会社にとって確実な遵守が求められます。労働基準法に違反した場合、内容が悪質と判断されれば刑事罰の対象となることもありますし、何より昨今では労働基準法違反が発覚すれば社会から強い非難を受けて会社のイメージも低下するリスクがあります。特に、将来的に株式公開を考えている会社の場合、上場準備段階で労働基準法を遵守しているかは必ず精査されることになります。
なお、労働に関する法律としては2007年に成立した労働契約法も重要です。労働契約法は、それまで裁判所による判断が蓄積されていた論点について法律という形で整理したものです。例えば、就業規則を変更する場合のルールや、有期契約労働者の雇止めに関するルールなどが定められていますので、会社にとっては労働基準法に次いで重要度が高い法律といえます。
2.従業員を雇用する際に最低限知っておくべき法規制
従業員を雇用する際には、労働基準法をはじめとした法律上のルールを知っておく必要があります。労働基準法等は労働者を守るために労働条件について会社が遵守すべき事項を詳細に定めています。
2-1.労働条件
雇用する従業員の労働条件については、当然ながらまったくの自由ではなく労働基準法等に基づき一定のルールが定められています。
例えば、労働時間について労働基準法では1日8時間以内、1週間40時間以内としています。残業をさせる可能性がある場合には従業員の過半数代表者または労働組合との間で時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。日本企業では残業が当たり前になっていることもあり、協定の締結や届出を失念している中小企業が案外多いため注意が必要です。
労働条件に関するルールは、厚生労働省のWEBサイトにわかりやすくまとめられていますので参考にするとよいでしょう。
労働条件・職場環境に関するルール(厚生労働省)
2-2.就業規則の作成
就業規則とは、主に従業員の労働に関する社内規程です。主に、始業時間・終業時間、休憩時間、休日、賃金、退職に関する事項が記載されています。このほかに懲戒処分に関する定めなども規定されることが通常です。
雇用形態に限らず常時雇用する従業員が10人未満の会社については就業規則の作成が義務付けられていません。ただし、就業規則を定めていない場合には就業規則に基づいて行われる懲戒処分などができなくなります。また、退職時の予告期間については就業規則で1か月前予告と定める会社が多いですが、これも就業規則に定めがなければ法律上定められている2週間前予告で足りることになります。
したがって、就業規則を作成しておくことは、従業員にとってだけでなく会社にとっても有益といえますので、従業員を雇用する際には従業員の人数に関わらず就業規則を作成しておくことをおすすめします。
なお、就業規則については厚生労働省が「モデル就業規則」を公表していますので、記載方法が分からない場合には参考にするとよいでしょう。
モデル就業規則について(厚生労働省)
会社が就業規則を作成した場合には、以下の措置が必要です。
・従業員の過半数または労働組合の過半数の意見書を添付して管轄の労働基準監督署に届け出る
・事業所内で社員がいつでも閲覧できるよう見やすい場所に掲示し、または備え付ける
就業規則の掲示または備え付けに関しては、従業員が誰でもアクセスできる共有フォルダなどにデジタルデータで保存する方式でもよいとされています。
2-3労働契約書または労働条件通知書の交付
実際に従業員を雇用する際には、従業員に対して労働条件を書面にして交付する必要があります。このとき、会社と従業員の双方が署名押印する雇用契約書ではなく、労働条件通知書を会社が作成して一方的に従業員に書面を交付する方式も可能です。
3.正社員とは
従業員を雇用する際にまず決める必要があるのが雇用形態です。雇用形態は大きく分けて正社員と非正規社員とがあります。ここでは、正社員とは何か、正社員を雇用することのメリットとデメリットを見ていきます。
3-1.正社員は無期労働契約かつフルタイム
正社員という言葉は法律上の用語ではありませんが、基本的には雇用契約に期限の定めがなく、かつフルタイムで定年まで雇用が継続することを前提とした従業員のことを指します。
フルタイムとは、基本的には会社の就業規則で定められた所定労働時間の上限まで勤務している状況を指します。多くの会社では1日8時間・週5日勤務がフルタイムとなります。ただし、会社によっては1日の労働時間を7.5時間などと短縮していることもあります。この場合には、1日7.5時間勤務していればフルタイムといえます。あくまでも会社の定める就業規則次第であるという点に留意する必要があります。
3-2.正社員を雇用するメリット
正社員には期限の定めがなく基本的には長期に渡り働き続けることが期待できるため、長期的な人材育成が可能となることや、会社の機密情報に関わるような重要な仕事を任せやすいことがメリットとして挙げられます。また、正社員として募集する方が優秀な人材を確保しやすい傾向もあります。
3-3.正社員を雇用するデメリット
反対に、正社員として雇用した場合には解雇事由に該当しない限り会社側から雇用契約の打ち切りをすることができません。よく知られているように、日本では解雇に関しては非常に厳しく運用されており、会社側からの解雇が許されるのは会社の経営が破綻寸前である場合や会社のお金を横領した場合など極めて例外的なケースに限られるのが実情です。
設立間もない会社の場合には、まだ従業員数が少ないということもあって一人の従業員の資質に問題があれば経営に大きなインパクトを与えます。このため、従業員を正社員として雇用する際には慎重に吟味する必要があるでしょう。
4.非正規社員とは
次に、非正規社員と何か、非正規社員を雇用することのメリットやデメリットを見ていきます。非正規社員にはさまざまな種類があるので、非正規社員のうちどの雇用形態を選択するかということも重要になるのですが、今回は非正規社員に一般的に当てはまる特徴に絞って解説します。
4-1.非正規社員とは正社員以外の従業員
非正規社員とは、正社員の定義に当てはまらない雇用形態すべてを指します。したがって、雇用契約に期限の定めがある契約社員や、期限の定めがなくてもフルタイム勤務ではないパートやアルバイトは非正規社員ということになります。
4-2.非正規社員を雇用するメリット
非正規社員を雇用するメリットは、例えば不況により経営が苦しくなってきた場合に人員調整がしやすい点が挙げられます。
また、労働条件次第では社会保険加入義務が免除されることがあるため、会社にとって人件費負担の軽減につながることも一つのメリットでしょう。ただし、非正規社員の社会保険加入義務については徐々に対象が拡大されていますので、今後の法改正によっては大きなメリットではなくなる可能性も視野に入れておく必要がありそうです。
4-3.非正規社員を雇用するデメリット
従業員を非正規社員として雇用する場合には、賃金額にもよりますが基本的には重要な仕事を任せにくいというデメリットがあります。例えば、雇用契約に期限の定めがある契約社員の場合には、長期的な人材育成がしにくいため結果として単純事務作業のみを任せるしかなくなることがあります。
また、正社員を雇用するメリットの裏返しですが、非正規社員としての募集だと優秀な人材の確保が困難となる傾向にあります。
したがって、会社設立当初は慎重を期すために契約社員などとして雇用するとしても、一定の期間経過後には正社員として登用する制度を設けるなどの工夫も必要となるでしょう。
5.非正規社員から正社員への変更
2012年に改正された労働契約法において、契約社員など雇用契約に期限の定めがある従業員について期限の定めのない契約に転換することのできる無期転換制度が新設されました。
具体的には、同一の使用者(会社)との間で締結された複数の雇用契約の契約期間が通算5年を超える従業員が使用者に対して、雇用契約の期限内に期限の定めのない雇用契約を締結するよう申し込んだ場合には、使用者は強制的に承諾したものとみなされることになります。
なお、会社側の意思によって契約社員を正社員に変更することは、会社と従業員との間で合意がある限り無期転換制度とは関係なくいつでも自由に行うことができます。
6. 会社設立の際には専門家に相談を
今回は会社を設立してすぐに従業員を雇用したいという社長向けに、社長が最低限知っておくべき法律のルールを説明しました。労働関係のルールは会社と従業員の関係が円満であればそれほど問題を生じることはないのですが、トラブルが生じた場合に会社が労働に関するルールを守っていなければ、従業員から訴えられることや労働基準監督署に相談されて会社が指導等を受けることもあります。したがって、従業員を雇用する前から法律上のルールに従い労働条件などを十分に検討しておく必要があります。
このように会社設立の際には、設立手続以外にも多くの準備が必要となります。そこで、会社設立手続については社長の手間を軽減するためにも税理士など専門家への相談も検討するとよいでしょう。どのような事務所に相談するべきかわからないという場合は、まずは本サイトの窓口へ問い合わせてみましょう。
松浦綜合法律事務所代表。京都大学法学部、一橋大学法科大学院出身。東京弁護士会所属(登録番号49705)。