スタートアップ企業のアイディアを保護するために知っておくべき知的財産法
目次
1.知的財産法とは
知的財産とは、人の思考により生み出されたアイディアや技術のうち財産的価値を持つものをいいます。そして、知的財産法はこのようなアイディアや技術を保護するための法律の総称です。したがって、「知的財産法」という一つの法律があるわけではありません。知的財産法のうちスタートアップのビジネスに関わる知的財産法としては、商標法、特許法、著作権法などがあります。
2.ブランド名を保護する商標法
商標法は、事業者が取り扱う商品やサービスに使用する文字、ロゴやマークなどを保護する法律です。商品やサービスの名称は、事業が拡大するにつれてブランド価値を有するようになります。このような事業者が築き上げたブランド価値へのただ乗りを排除するために、商品名やサービス名などを保護する必要があるのです。
(1)商標法の保護範囲
商標法が保護するのは、特許庁に登録された商標です。商標とは、事業者が取り扱う商品やサービスに付される標章であり、文字、図形、記号、立体的形状、音などによるものが商標登録の対象となります。
(2)商標登録の方法
商標登録をする場合には、特許庁長官に対して商標登録を出願します。出願にあたっては、その商標を使用する商品又はサービスのカテゴリを指定する必要があります。商標登録は、原則として先に商標登録の出願を行った者を保護する先願主義が採用されています。したがって、自社で使用する商標が決まったら早い段階で商標登録をする必要があります。
反対に、自社で使用する商品名やサービス名を検討する際には、他者がその名称について商標権を有していないかを確認するべきです。商品やサービスをリリースした後に、商標権を有する第三者から名称の使用差止めを請求されるとその名称が利用できなくなることがあります。その名称を広めるために広告宣伝費等を投入していた場合には、それが無意味になってしまうリスクがあるのです。
(3)商標権を侵害されたら
自社が商標登録をしている名称を第三者が無断で使用している場合には、自社のブランド価値へのただ乗りとなり顧客が当該第三者に流れることも懸念されます。また、その第三者が登録されている商標を使用して劣悪なサービスを提供した場合には、自社のブランド価値を毀損されるリスクもあります。
したがって、商標権を侵害された場合にはただちに無断使用している第三者に対して使用差止め請求をする必要があります。また、無断使用によって自社に損害が発生している場合には、あわせて損害賠償請求をすることもできます。
3.技術やビジネスモデルを保護する特許法
発明にあたる高度な技術上のアイディアを保護するのが特許法です。このほか、IT企業においてはビジネスモデル特許も重要です。
(1)特許法の保護範囲
特許法が保護するのは発明のような高度の技術的アイディアです。特許法が保護する技術は相当程度に高度なものであるため、特許権を取得することはハードルが高いといえます。
もっとも、特許法の要件を満たさないような技術的アイディアについては、実用新案登録を検討する余地があります。実用新案は、例えば日用品によくある便利グッズのようなちょっとした工夫についても登録が認められます。
(2)ビジネスモデル特許とは
特許権の対象となるものの一つにビジネスモデル特許があります。スタートアップにとっては一般的な特許よりビジネスモデル特許の方が検討する機会が多いかもしれません。
よく誤解されるところですが、ビジネスモデル特許はビジネスモデルそのものを保護するものではなく、ビジネスモデルを実現するためのインターネット等の仕組みを保護するものです。要するにIT分野の新しい技術に対して与えられる特許ということができます。したがって、単なる構想のままでは保護の対象とならず、その構想をシステムに落とし込む必要があります。
ビジネスモデル特許を取得している事例として有名なものに、Amazonのワンクリック決済システムがあります。
(3)特許の取得方法
特許を取得するためには特許庁長官に対して特許出願をします。特許出願に必要な書類の作成にあたっては、特許法の法的知識だけでなく技術的な知識も要求されます。したがって、その技術を得意分野とする弁理士に出願を依頼することが通常です。
(4)特許権を侵害されたら
特許権を取得すると、技術は公開されることになります。その反面、特許権を取得した者は特許の対象となる発明を独占的に実施することができ、第三者が無断でその発明を利用している場合には差止め請求等によって排除することが可能となります。
4.コンテンツやプログラムを保護する著作権法
著作権法は、IT分野においては特に重要な法律といえます。例えば、WEBサイト上の文章や写真、イラストなどのコンテンツの多くは著作権を有します。また、コンピュータプログラムも著作権法により保護されます。
(1)著作権法の保護範囲
著作権法により保護される著作物とは、文芸、学術、美術、音楽などの分野において作者の思想や感情が創作的に表現されたものをいいます。上記のとおり、コンピュータプログラムを含みますが、創作性が必要となる点には留意する必要があります。つまり、誰が作成しても同様のものが出来上がるようなプログラムについては、著作物として保護されないということです。
(2)著作権は登録不要
著作権はこれまで取り挙げた知的財産権と異なり登録等の特別の手続を要することなく、創作と同時に発生します。なお、コンピュータプログラムについては登録制度を利用することができます。具体的には、ソフトウェア情報センターに対して登録を申請する必要があります。登録をすることにより、自社が当該プログラムを創作したこと、またその時期が証明しやすくなります。
参照:著作権情報センター(SOFTIC)http://www.softic.or.jp/touroku/
ただし、著作権については、上で説明したような任意の登録制度はありますが、登録していることが権利発生の要件とはなっていません。したがって、登録されていないものであっても著作権が認められます。このため、自社のコンテンツやコンピュータプログラムが他者の著作権を侵害していないかの調査は十分に行う必要があります。特に、コンテンツの作成などを外注先に委託した場合には、外注先がコピペをしていないかのチェックは必須です。
(3)著作権を侵害されたら
自社の有する著作物を第三者が無断で使用している場合には、著作権侵害となります。著作権を侵害された場合、著作権者は侵害する第三者に対して差止め請求、損害賠償請求などをすることができます。また、悪質な著作権侵害は刑事罰の対象となることがありますので、著作権者としては刑事告訴を検討する余地もあります。
5.知的財産権については専門家に相談を
知的財産権のうち技術的要素の強い特許権や実用新案権に関しては、弁理士が取り扱うことが多いといえます。得に、登録の際には弁理士に依頼することがほぼ必須でしょう。
他方、著作権や商標権に関しては弁護士でも取り扱っていることがあります。ただし、知的財産分野に関しては専門性が高いため、士業であれば誰でも対応できるとは限りません。もっとも、IT分野を専門としている弁護士であれば、知的財産にも詳しいことが多いでしょう。
最近スタートアップの主流となっているIT業界においては、知的財産が事業展開の核となっていることが多くあります。取引先等と契約を締結する際にも自社の有する知的財産が侵害されるおそれがないかについて十分に気を配る必要があります。