退職金を現物(不動産や役員保険)で支給しても大丈夫? | 「税金経営」の時代 |
退職金は金銭で支払うことが一般的ですが、不動産や会社が加入している保険などで現物支給することができます。ただ、不動産の場合は、登記費用や不動産取得税等の費用がかかりますので、そのあたりを踏まえて選択しましょう。
退職金は金銭で支給されるのが通常ですが、支給手段は金銭だけではなく金銭以外、たとえば不動産や会社が加入している退任役員を被保険者とした保険などの現物を支給することでも構いません。
現物で退職金を支給する場合のポイントは、次の通りです。
1.現物の価額。
2.現物の価額と帳簿価額との差があれば会社に「益」か「損」がでる。
3.源泉徴収(納税)は、必ず金銭。
現物の価額というのは、金銭で退職金を支給する場合、退職金 5000万円の金銭は 5000万円でしかありませんが、たとえば会社所有の不動産を退職金として「支給」となると、対象不動産の価額がいくらかを決めなければなりません。現物で退職金を「支給」するとなると、必ず対象となった現物の価額を決めることになります。
金銭でもらうよりも、維持費や売却時の手間がかかる不動産
不動産の価額のように相場の目安があるものでも、大体このくらいという決め方はできませんので、最終的に不動産の価額を議事録等において、明確にする必要があります。
一般的には不動産の鑑定価額や会計事務所等で公示価額等をもとに算定したりしたものを採用することになります。ただし、現物だからといって、退職金としての価値を割引くようなことはありません。金銭の5000万円と不動産の5000万円のどちらがいいかといえば、通常は金銭5000万円の方を選ぶのではないでしょうか。不動産の場合は維持費もかかり、いざ売却して金銭にかえようとすると手間や諸経費がかかるため、同じ金額であれば金銭の方に価値がある、と思います。したがって、不動産であればその分、割り引いてもらわなければ等価にならない、という面はあるでしょうが、退職金の価額を決める際に、そのあたりを加味することはありません。不動産価額5000万円は、あくまで5000万円として退職金額を決めることになります。
また、退任役員を被保険者とした役員保険を退職金代わりに現物支給することもあります。役員の退任にともなって解約したとしても「損」になるような場合は、あえて解約しないで、保険契約の現物を退職金として「支給」することがあります。この場合の現物の価額は、「支給」時の対象となる保険の解約返戻金相当額となります。
現物の「支給」となると会社の方で金銭支給の場合と違った処理が必要となります。具体的には、現物の価額と現物の帳簿価額との差を「益」か「損」かで会計処理をすることになります。
不動産価額5000万円のものを現物で「支給」した場合、対象不動産の会社の帳簿価額が1000万円の場合、4000万円の「益」が実現したことになりますので、同額が会計上「固定資産売却益」として計上されることになります。一方で、退職金が5000万円「損」として計上されますので、この場合、会計上差引1000万円の純損(5000 万円− 4000万円)となります。
最後に源泉徴収についてです。退職金については、金銭であろうが金銭以外の現物であろうが、同じように退職金に対する源泉徴収及び納付の手続きが必要となります。不動産価額5000万円にかかる源泉徴収額を590万円とすると、会社は590万円を税務署に対して、納付しなければなりません。
ところが金銭の場合であれば支給される金銭から源泉徴収して差額 4410万円
(5000万円 − 590万円)を個人に支払えばいいのですが、現物の場合、源泉徴収できる金銭が支給されていませんので、個人から直接徴収するかその分を会社が立て替えるかのいずれかの方法により納付しなければなりません。いずれにしても個人の資金負担が生じます。そこで、現物退職金の場合、現物に加えて金銭を別途支給してそれを源泉徴収して税務署に納付する方法が通常です。
つまり、不動産価額 5000万円にプラスして金銭支給 1000万円にして、総額 6000万円の退職金として、源泉徴収額を850万円とすると金銭支給分から850万円が徴収され、個人には不動産 5000万円と金銭 150万円( 1000万円 − 850万円)が支給されることになります。