解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の扱いや計算はどうなる?
解雇予告手当とは、解雇予告を適切に行わなかった場合に、従業員に支払う義務の発生する金銭のことを指しています。
つまり、解雇予告を適切に行っていた場合には支払う必要のない金銭となるため、やむを得ない事情がない限りは、会社側が解雇予告手当を支払うことはありません。
そのため、解雇予告手当を支払うことになった場合に、所得税や住民税、社会保険料などの扱いや計算方法はどうしたらよいのか、迷ってしまいますよね(^^;
しかし、ここで計算を間違えてしまったり、金銭についての従業員への説明が曖昧になってしまうと、解雇した後で従業員とのトラブルに発展してしまうことも少なくありません。
ここでは、そんなトラブルを防ぐために、解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料などの扱いや計算方法などについて、詳しく見ていきたいと思います。
目次
解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の扱いは?
従業員を解雇する場合は、事前に退職勧告を行って従業員の同意が得られた後、退職日の30日前までに解雇予告を行うのが一般的であり、本来は解雇予告手当は支払う必要はありません。
解雇予告手当とは、会社が従業員に対して、退職日の30日前までに解雇予告を行わずに解雇した場合に支払う義務の発生する金銭のことを指しています。
つまり、退職日の15日前に解雇を宣告した場合には、解雇予告をしていなかった15日分の解雇予告手当を支払う必要があるということです。
上記を踏まえると、退職日から逆算して、解雇予告をいつ行ったのかによって、解雇予告手当の支払額が異なるわけですね。
そのため、解雇予告手当の支払額によって、所得税・住民税・社会保険料などの負担額・控除額も異なります。
所得税については、解雇予告手当は退職所得に分類されるため、退職金の場合と同様に、会社側が源泉徴収を行い、原則として、翌月の10日までに納付する必要があります。
住民税についても、所得税と同様、会社側が源泉徴収をする必要があります。
一方、社会保険料については、控除の対象からは外れているため、計算する必要はありません。
これは、解雇予告手当が、労働をした場合における賃金には当たらないことが理由であり、雇用保険料なども控除の対象ではないので、覚えておきましょう。
解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の計算はどうなる?
ここでは、解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の計算方法などについて、詳しく見ていきたいと思います。
解雇予告手当の計算方法は?
解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の計算方法について触れる前に、まずは、解雇予告手当の計算方法について確認しておきましょう。
解雇予告手当を算出するための計算式は、以下の通りです。
それでは、それぞれの計算方法について、より詳しく解説していきます。
平均賃金の計算方法
解雇予告手当の計算式自体はそこまで難しくはないのですが、ここで重要になるのが、平均賃金です。
平均賃金とは、労働基準法第12条の規定により、原則として、以下の計算式に当てはめることで求めることができます。
直前3ヶ月の間、会社員として、特に問題もなく通常労働をしていた場合には、こちらの計算式に当てはめて計算することで、平均賃金がいくらになるかを求めることができます。
ただし、以下の要件に該当する賃金は、賃金総額に含めることはできないので注意しましょう。
- 労災により、休業中の期間に該当する賃金
- 産休、育休、介護休暇中の期間に該当する賃金
- 会社都合により、休業中の期間に該当する賃金
- 試用期間に該当する賃金
- 賞与などの臨時に支払われる賃金
これらの点をしっかりと把握することで、直前3ヶ月に支払われた賃金総額を正しく計算することができます。
総日数の計算方法
続いて、総日数の計算方法について、詳しく見ていきましょう。
総日数とは、退職日までの3ヶ月の間に出勤した日数の合計を算出したものになります。
ただし、以下の要件に該当する期間がある場合には、その期間の日数は総日数に含めることはできないので注意しましょう。
- 労災により、休業中の期間に該当する日数
- 産休、育休、介護休暇中の期間に該当する日数
- 会社都合により、休業中の期間に該当する日数
- 試用期間に該当する日数
こちらの要件を見ると、賃金総額として計算できないものが総日数に含めることができないということがわかりますよね。
平均賃金と同様、総日数の正しい計算方法についても把握しておくことで、解雇予告手当を正しく算出することができます。
解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の計算方法は?
それでは、解雇予告手当の所得税・住民税・社会保険料の計算方法について、詳しく見ていきたいと思います。
上述しましたが、それぞれの扱いについてもう一度見ていきましょう。
まず、社会保険料は源泉徴収の対象ではないため、計算する必要はありません。
一方、所得税と住民税は源泉徴収の対象になります。
ここで覚えておきたいのが、解雇予告手当は所得税の中でも退職所得に分類されること、所得税と住民税の控除額は同額になるということです。
そのため、会社側は解雇予告手当の金額分を源泉徴収して、「退職所得の源泉徴収票」を作成する必要があります。
この「退職所得の源泉徴収票」は、退職後1か月以内に、解雇した従業員に送付する必要のあるものなので、忘れないように注意しましょう。
また、源泉徴収を行う時の計算方法については、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無によって異なります。
それでは、「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合とそうでない場合の計算方法の違いについて、詳しく見ていきましょう。
退職所得の受給に関する申告書を提出している場合
退職所得の受給に関する申告書を提出している場合の計算方法は、以下の通りです。
- 退職する人の勤続期間を計算する
- 退職所得控除額を計算する
- 課税退職所得金額を計算する
- 源泉徴収する金額を計算する
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1.退職する人の勤続期間を計算する
まず、退職する人の勤続期間を計算します。
勤続期間とは、原則として、退職日までに勤務した期間(勤続期間)のことを指しています。
この時、勤続期間が1年に満たない場合には、1年に切り上げて計算します。
また、以下のような期間があった場合には、勤続期間の計算に注意する必要があります。
勤続期間に含むもの | 勤続期間から除くもの |
①長期の欠勤や病気での休職の期間 (⑤に該当するものを除く) | ④日額表丙欄の適用を受けていた期間 |
②過去に同一の支払者の下で勤務した期間(④⑤⑥に該当するものを除く) | ⑤他の支払者の下で勤務するために休職した期間(③に該当するものを除く) |
③その支払者又は他の者の下で前に勤務した期間で、退職給与規程などの明らかな定めに基づき、退職手当等の支払金額の計算の基礎に含まれる期間 | ⑥その支払者から前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎となった期間の末日以前の期間(③に該当するものを除く) |
このように、勤続期間に含むものと含めないものがあるため、正しく理解して計算することが重要です。
2.退職所得控除額を計算する
1で算出した勤続期間に応じて、退職所得控除額を計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
また、以下のような勤続期間の重複がある場合には、本年分の退職所得控除額から、重複期間の退職所得控除額相当額を控除した残額が、実際の退職所得控除額となります。
- 本年分と前年以前の勤続期間を通算して計算している場合に発生する重複期間
- 前年から4年以内に他の支払者から退職手当等を支払われている場合に発生する重複期間
なお、前の退職手当等の収入金額が、上記の表で計算した額を下回る場合には、下記の表の計算式を用いて、さらに計算を行う必要があります。
この計算式を用いて算出した数に相当する年数を経過した日の前日までの期間のものとみなして、本年分の退職手当等の勤続期間との重複期間の計算をします。
前の退職手当等の収入金額 | 計算式 |
800万円以下の場合 | 収入金額÷40万円 |
800万円を超える場合 | (収入金額-800万円)÷70万円+20 |
3.課税退職所得金額を計算する
課税退職所得金額の計算式は、以下の通りです。
課税退職所得金額は、退職手当等の支給額から退職所得控除額を差し引いて、その残額を2分の1することで求めることができます。
また、役員等としての勤続年数が5年以下の者が受け取る退職手当等の場合は、支給額から退職所得控除額を控除した残額が課税退職所得金額となります。
どちらの場合においても、1,000円未満の端数は切り捨てて計算します。
4.源泉徴収する金額を計算する
源泉徴収する金額を求めるため計算式は、以下の通りです。
課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) | 税額=((A)×(B)-(C))×102.1% |
195万円以下 | 5% | 0円 | ((A)×5%)×102.1% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 | ((A)×10%-97,500円)×102.1% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 | ((A)×20%-427,500円)×102.1% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 | ((A)×23%-636,000円)×102.1% |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | ((A)×33%-1,536,000円)×102.1% |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | ((A)×40%-2,796,000円)×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | ((A)×45%-4,796,000円)×102.1% |
3の課税退職所得金額に応じて、上記の表に該当する計算式に当てはめて計算することで、源泉徴収する金額を求めることができます。
退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合
退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合の計算式は、以下の通りです。
退職所得の受給に関する申告書を提出している場合と、そうでない場合との違いは、所得税が確実に源泉徴収されるという点です。
退職所得の受給に関する申告書を提出している場合には、所得税が控除されるため、退職所得額が退職所得控除額を下回っている場合には、所得税はかかりません。
課税額は住民税も同様なので、所得税がかからない場合には、住民税もかからないことになるため、負担が少なくて済みますよね。
しかし、退職所得の受給に関する申告書を提出していない場合には、20.42%の所得税が源泉徴収されるため、確定申告を行って清算する必要が出てきます。
これらの負担を考えると、退職所得の受給に関する申告書を提出している方がメリットが大きいといえます。
解雇予告手当の所得税・住民税の計算は正しく行うことが重要!
解雇予告手当を支払うことになった場合には、源泉徴収を行う必要があります。
源泉徴収の対象となるのは所得税・住民税であるため、計算をして税額を算出する必要がありますが、なかなかに複雑ですよね。
また、退職所得の受給に関する申告書を提出しているかどうかによっても計算方法が異なるほか、確定申告の必要性も説明しなければならないなど、配慮する点も多くあります。
しかし、それぞれの基準をしっかりと確認した上で、落ち着いて算出すれば、それほど難しいものではありません。
従業員とのトラブルを防ぐためにも、上記を参考に、解雇予告手当の所得税・住民税の計算を正しく行いましょう(^^♪